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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第二章

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15 アーマ宿舎での再会。

(ここ……だよね)


 軍用地の門を出て、もう大体把握した道を歩いて、村の休日なので店も閉まって閑散としているスークを歩き、正門前のレンガの大きな建物の前まで来た佐知子。

 正門側からは三階立てで、窓しか見えない。


「…………」


 左側の少し広い道に入っていく。


「わ!」


 すると先程から何か臭うな……と思っていたが、馬小屋があり馬がいて、佐知子は驚いて声を発した。


 アーマ宿舎の一階は、馬小屋と農具置き場になっているようだった。そして右端に薄暗いレンガの階段がある。


(ここが入口かな……入ってもいいのかな……)


 佐知子は戸惑いながら階段の下から上を覗く。


「あ、あのー……」


 恐る恐る出した声に返事はない。佐知子はぐっと腹に力を入れた。


「あのー! すみませんー!!」


 大声で声をかけると、一人の褐色肌の中年男性が顔を見せた。


「あ、あの……知り合いに会いに来たんですが、上がってもいいでしょうか……」


 ぎゅっと拳を握りながら佐知子が問うと、男性は動揺したように挙動不審に視線や体を微妙に動かしながら言葉を返した。


「あ……ああ、別にかまわねぇと思うけど……」


 その言葉に佐知子はほっとする。


「じゃあ……お邪魔します……」


 そしてレンガの階段を上っていく。


 二階は男性専用の階の様で男性しかいなかった。皆、佐知子を少し驚いた目で見ていた。


(何だろう……お客さんが珍しいのかな……)


 そんなことを思いながら、レンガの階段は右手に上へと折り返し続いていたので、


「あの、女性は三階ですか?」


 と、佐知子は先程の男性に問う。


「あ、ああ……」


 ありがとうございます。と、会釈して、そのまま佐知子は三階へと向かった。


 アーマ宿舎は階段や壁のレンガが崩れているところもあり、やはりアーマ……施しを受けるものという意味で、最下層の人が住む様な宿舎だった。


 それでも難民の人たちにとっては、雨風しのげて安全で食事が出るなんて、とても素晴らしいんだろうな。と、佐知子はノーラと病院で話したことを思い出しながら階段を上った。


 女性専用の階に着くと、ちらりと見た男性の階と同じ作りで、広い部屋の左右にレンガで壁だけの仕切りが何個かあり部屋の様になっていた。


 中央に少し広いスペースがあって大きな質素な絨毯が敷かれている。


 階段と絨毯の境目にはたくさんのぼろぼろの靴が脱いで置かれていた。ここで靴を脱ぐのか。と佐知子が考えていると、やってきた佐知子を大勢の女性たちが凝視していることに気付く。


 人数は二十人……以上、といった所だろうか。佐知子は後退りしそうになるが腹部にぐっと力を入れ、ぎゅっと両手を体の前で握ると、


「こ、こんにちは……」


 と、小さく挨拶をした。その言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。赤子の泣く声が響いた。


「あ、あの……ノーラさんという方は……」


 いらっしゃいますか。と、言葉を続ける前に、


「サチコ!」


 久しぶりに聞く、聞きなれた大きな声が響いた。


「ノーラさん!」


 左側の、レンガで仕切られた部屋のようなところから探していた人物、ノーラが飛び出してきたのだ。


「あなた! どうしてこんなところに!?」


 ノーラは慌てて駆け寄り、サチコの手を握る。


「遊びに行くって約束したじゃないですか! お元気でしたか!? 仕事には慣れましたか!? 大丈夫ですか!? ちゃんと生活できてますか!?」


 久しぶりに会えたノーラに嬉しくて、佐知子は表情をほころばせながら矢継ぎ早に質問を何個も投げかける。


「ええ、ええ、元気よ。元気にやってるわ。あなたのおかげで農作業しながら食事も頂いて寝床も頂いて、学校で勉強もさせて頂いているわ」


 二人は階段の前で早口にしゃべる。

 しかしそこで二人はハッとする。注目を浴びていることに……。


「あ……私の部屋に行きましょうか。部屋といってもレンガで区切ってあるだけで他の女性二人と一緒なんだけど」


 ノーラは苦笑しながら佐知子の手を引っ張る。


「はい!」


 嬉しそうに微笑み、佐知子は靴を脱いだ。

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