12 突然の抱擁。
(今日からまたいつも通りの日々だ~……)
佐知子は昼食を食べながらそんなことを思う。そして時間になると勉強道具を持ち、混沌のセロの研究室へと向かった。
セロの部屋の扉をコンコンとノックする。
「は~い」
すると中から覇気のない声が聞こえてきた。
「失礼します……こんにちは、セロさ……」
「サッちゃーん!」
机に片腕を伸ばしてそこに顔を乗せ、むっとしながら何かを書いていたセロが、佐知子を見るなりガタっと立ち上がり、美しい顔をきらきらと更に輝かせて両腕を広げ、大声で佐知子の名を呼びながら凄い勢いで佐知子の所まで来ると、佐知子をがばっと抱きしめた。
「っ……」
突然の出来事に佐知子は硬直した。セロからは柑橘系に少しフローラルが混じった爽やかな香りがした。
「サッちゃーん!! 終わったんだよね!? 終わったんだよね!? もう終わったんだよね!?」
セロは大声で嬉しそうに、満面の笑みで佐知子の頭に頬ずりをして、ハッとする。
「おっと、ヨウに見られた殺されるな。今のは二人だけの秘密ね」
高身長のセロは少し下がり屈むと、片目を閉じて唇の前に人差し指を出して微笑む。
(な……何なの!?)
真っ赤になりながら少し震え、佐知子は心の中で叫んだ。
(何かいい匂いしたし! 抱きしめられたし! 何!? 一体何!?)
突然の事にどうしていいか分からずにいる佐知子。
「あ、座って座って。椅子そこにあるよね?」
「……はい」
しかしセロが急にいつも通りのセロに戻ったので、佐知子は動揺しながらも、少し冷静になった。
しかし未だに顔は赤い。そしてまたもや机の上の物を腕で無理矢理押し退けて、空間を空けているセロの前に座った。




