9 墓参り。
二人は黙って正門を出て左に曲がり、黙々と乾いた大地を歩く。
少し暑くなってきて、汗がこめかみから頬につたって来た。
そして、砂地に大量に立つ白い石の光景。風が頬を撫でた。
アイシャは黙々と歩き、もう何度も行きなれた道なのだろう、同じ白い石なのに間違うことなくその石の前にたどり着いた。
白い墓石には、日本の墓のように綺麗にではなくノミか何かで削り掘られたように、もう佐知子にも読めるこちらの文字で『二区のアイシャの息子アフマド、ここに眠る』と彫られていた。
「はい……花」
そしてアイシャに白い小さな花を渡される。
「ありがとうございます……」
先にアイシャが花を石の前に手向け、飛ばないように茎に少し砂をかけて手を合わせた。
「はいよ、アフマドと久しぶりに話をしておくれ」
少し悲しそうにアイシャは佐知子にほほえんだ。
「はい……」
同じように花を手向け、佐知子は手を合わせ心の中でアフマドに語りかけた。
(アフマドさん……アフマドさん、お久しぶりです。ヨウは……元気です。私も、セロさんも、みんな元気です。でも……ヨウは少し心配性が増したかもしれません……アフマドさんがいなくなったから……余計に……なのかな……アフマドさんのおかげで私は戦争を止める決意がつきました。そんな決意をするより、アフマドさんが生きててくれてた方が何百倍もいいんですけど……でも……ありがとうございます。アフマドさんの命……無駄にはしません。どうかゆっくり、休んでください)
語りかけているうちに、閉じている瞳の中で涙があふれてきた。佐知子は瞳を開く。
白い墓石に『二区のアイシャの息子アフマド、ここに眠る』の文字。その文字を何となく、じっと見つめた。




