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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第二章

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8 白い花。

「どうだい? 私のいない間に何かあったかい? 困ったことなかったかい?」


 二人並んでスークを目指す。


「いえ、もうここでの生活にも慣れましたし、仕事にも生活にも慣れて、困ったことはなかったです」


 久しぶりのアイシャとの会話に、佐知子は少し嬉しくなる。


「ヨウとは……なんかあったかい?」

「え……ヨウ……ですか?」


 そう問われ、佐知子は思考を巡らす。


 アフマドの葬儀以降のこと……。

 大戦争を回避するために外交官になろうとギドの丘で誓ったこと。

 いつでも何をしてもお前の味方だと言われたこと。

 また元の世界に戻ったかもしれないと心配をかけて、抱きしめられて手を繋いだこと……。


「っ……」


 あの夜の事を思い出して言葉を詰まらせ、少し頬を赤くする佐知子。


「おや~? 何かあったみたいだねぇ~? けっこうけっこう! おばさんは嬉しいよ! ……アフマドもきっと喜んでるよ」


 アフマドという名に、佐知子は一瞬にして真顔になる。


「あ、ここだよ」


 そしてスークを歩いて着いたのは、この地方ではなかなか栽培が難しく手に入らない為、一件しかない花屋だった。


「こんにちは、白い花をおくれ」


 穏やかさと悲しさと無が混じり合った複雑な表情で、アイシャは花屋の主人に注文する。


「いつもの白い花ですね……今日は二本ですか?」


 大柄の髭をたくわえた、熊に似ている褐色肌の店主が穏やかに問う。


「ああ……察しがいいねぇ、まったく」

「ははは」


 アイシャは苦笑して、店主は朗らかに笑う。


 白い花は二輪、乾いた植物の紐で茎を結ばれアイシャに渡された。


(あ!)


 心の中で佐知子はその花を見て声を上げる。


 その花は……アフマドの葬儀のときに手向けた、あの小さな花だった。


 お金を渡すと、アイシャはまたね。と手を上げ歩き出す。

 佐知子にはもう、この後どこに行くのかが分かっていた。

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