7 面影。
急いで朝食を食べ終え食器を持って調理場へと佐知子は向かった。
ひょいと顔を覗かせると、そこではアイシャと数人の女性が調理場の整理整頓をしていた。
「まーったく! なんでちょっと目を離した隙にこんなことになるんだね!」
「いや……ついつい忙しくて、後回しにしちゃって……」
アイシャに少し責められながらも、楽しそうに中年の女性と他の女性達も苦笑いしてバタバタと片付けをしていた。
「やっぱりアイシャさんがいないとだめねー」
そして、一人が鍋を抱えて苦笑した。
「…………」
アイシャは嬉しそうな、しかしどこか悲しそうな表情でほほえむと、一つ息を吐いた。
「あの……アイシャさん……食器戻しに来たんですが……」
ちょうど話が途切れたので、今来た風を装って佐知子は声をかける。
「ああ! サチコ! 食事終わったのかい?」
「はい」
「あたしの方も一段落ついたし……じゃあ、行くかね!」
アイシャは鍋を棚にしまい立ち上がり、佐知子ににっこりとほほえみかけた。
カンラに着替えたら噴水で。と言われ、佐知子は一度使用人小屋に戻り、いつも着ているカンラに着替えた。
髪は何となく下ろして梳いた。そして皮のサンダルを履き軍用地の門を出て広場の噴水へと向かう。
時刻は昼より早い、まだ少し涼しい時間帯だった。
「悪いねぇ! 遅くなっちゃって!」
噴水の前で待っているとアイシャの声がした。
振り向くと珍しいカンラ姿のアイシャがいた。
いつも後ろでまとめているウェーブの髪を下ろし、いつもよりもふんわりとした優しいお母さんの印象だ。柔らかくほほえんでいるので、そのせいもあるだろう。そしてやはり親子、佐知子にはアフマドを連想させた。
「じゃあ、行こうかね。あ、先にスークに寄るよ」
アイシャは佐知子の胸の内を知る由もなく、パッパと歩き出した。




