4 兵舎裏の庭園。
(あー……泣いた……)
今生の別れでもないのに、ひとしきりノーラに抱きしめてもらい泣いた後、佐知子は病院の階段をゆっくりと下っていた。
そして歩きながらふと夕暮れの中庭を見る。
「あ!」
そこである事に気づく。
(まだトトさんに難民課の事教えて貰ったお礼言ってなかった! どうしよう! 今から……でも日暮れるかな……どこにいるんだろう……病院内にいるなら……)
佐知子はきょろきょろと辺りを見渡し、再度、受付の女性の元へと駆け寄った。
「あの! すみません! トトさんってどこにいるかご存じですか……?」
「……トト薬師長? 薬師長なら今の時間、多分、薬草畑で水をまいてるんじゃないかしら」
「! 薬草畑ってどこにありますか!?」
やった! と思いながら佐知子は問う。
「軍用地の中の兵舎の裏よ」
「え! あんなところにそんなのあるんですか……」
知らなかった……と、佐知子は軍用地の中に住んでるのに……と、思う。
「あなた軍用地の中入れるの? 帰ってくるの待っていた方が……」
「あ、大丈夫です、入れます。ありがとうございました!」
心配する受付の年輩女性に会釈をして、笑顔で佐知子は軍用地の兵舎の裏へと駆け出す。日が暮れる前には済ませたいし、日が暮れたらトトも帰ってしまうだろう。
病院から軍用地の門はすぐ側なので、コインを見せ中へと入る。そして、少し涼しくなりこの時間が一番、皆が活気づくので訓練場も土煙を立てながら、男たちが取っ組み合いをしていた。
佐知子は以前、ヨウに連れられて知っている兵舎の外壁にぴたりとくっつきながら早足で気配を殺して歩いていく。
途中でらくだが現れてびっくりしたが、それを越えると何もない。
ただ、少しいい香りがした。
佐知子は足をそのまま進め、らくだ小屋の裏へと回る。
「あ! いた!」
思わず目的の人物を見つけ大声を出してしまい、咄嗟に口を塞いだ。
しかし、次の瞬間その光景に目を奪われた。
夕暮れのオレンジ色の中、小さな花々が咲き乱れ、緑の様々な形をした植物が決して一人では管理出来ないであろう面積に咲き乱れていたからだ。
まるでそれは庭園だった。
「!」
その美しさに見惚れていた佐知子はハッとしてトトを見る。トトは一心不乱に何かを掘っていた。先ほどあれだけの大声を出したのに、気づいていないようだ。
(近づいて、声……かけるしかないよね……)
佐知子は庭園のような薬草畑を歩いていく。そしてトトの背後に立った。




