3 床に落ちた涙。
その後、医師と看護婦が来て、ユースフが感染症ではなく経過は良好で、一般病棟に移ったこと、四日後には退院だということ、そのままアーマ宿舎に移る手はずになっていることを通訳し、サチコは退院の日以外自分はもう来ない事を伝えた。
そして、日没の鐘が鳴る。
「それじゃあ……ノーラさん、また退院の日に」
窓から夕暮れの茜色……とは違う、鮮やかなオレンジ色の日差しが入って来て二人を照らす。
「ええ……今まで本当にありがとう。あなたには感謝してもしきれないわ。ユースフの命の恩人よ。感謝してる」
ノーラはぎゅっと佐知子の手を握った。
「やめてください……最後のお別れみたいじゃないですか……四日後には来るんですから!」
泣きそうになるのを堪えて、佐知子は握り返しながら明るく努める。
「そうね……こんなこと……おこがましいかもしれないけれど……あなたは恩人だけど、私にとってはもうかけがえのない友人……そして娘……みたいなものよ。もし何か困った事があったら、私に出来る事があったら、いつでも言ってね。今の私には何も出来ないかもしれないけれど……出来る限りの事はするわ……」
ノーラはにっこりと笑った。
「…………」
その言葉に、堪えていた涙が零れ落ちた。
「っ……私も……です……いつでも……また! 困ったことがあったら! 頼ってください!」
下を向いて佐知子はしゃくりあげる。
「ええ……」
その頭をノーラは優しく撫でた。
「っ……」
涙は、ぽたり、ぽたりと、床に落ちた。




