1 それから数日後……。
それから数日、佐知子は勉強会を休み、その時間ノーラの所へ行く日々を過ごしていた。仕事の後の仮眠は取れたので身体的に楽で助かっていた。
ノーラの所へ行き、看護婦や医師との間の細かい通訳などをして、余った時間は佐知子の持ってきたおやつを食べながら世間話をして過ごす毎日だった。
しかし、いつものように昼食後、隔離病棟の病室へ行くと、
「こんにちはー……って、あれ!?」
そこにノーラとユースフの姿はなかった。しかも病室は綺麗に片づけられていた。
「え? え!?」
佐知子は動揺するが、慌てながらも冷静に受付の人に聞こうと隔離病棟を出ようとして、手洗いうがいを忘れそうになり、慌ててすると隔離病棟を出た。
「すみません! 隔離病棟にいたユースフくんがいないんですがどうしたんですか!?」
急いで受付に行き、身を乗り出しながら問うと……
「……ユースフさん?」
受付にいた少し年配の眼鏡をかけたアフリカ系の女性が、面食らいながらも何か書類をめくる。
「ああ、この子ね。この子なら今日、一般病棟へ移ったわよ」
「え!」
それを聞いて驚く佐知子。昨日、何も言われてなかったのに! と。
「どこの部屋ですか?」
とりあえず一般病棟に移っただけな事に安堵して、佐知子は少し落ち着いて質問する。
「二〇三号室よ。場所わかる?」
入院名簿から顔を上げた受付の女性が佐知子に優しく問う。
「二階に行けば分かりますか?」
わざわざ一緒に来て貰うのも申し訳ないので佐知子がそう返すと、
「ええ、番号札があるから」
と、返って来た。
「わかりました、ありがとうございます!」
佐知子は頭を下げ、ほっとして階段へと向かう。
(なんだ……一般病棟に移ったのか……それなら昨日、先生か看護婦さんが言ってくれれば良かったのに……ノーラさん大丈夫かな……混乱してないかな……)
そう思いながら受付の裏にある階段を上り、佐知子は二階へと向かった。




