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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第一章

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37 次への決意。

「今日はごめんね」


 外に出て真っ暗な寒い夜空の下、佐知子は話す。


「いや……俺も……動揺しすぎた……」


 ヨウは俯いて呟くように返した。


「……ヨウの手はおっきいね」


 角を曲がりながらもう一言。


「あ? ああ……そう……か?」


 ヨウの耳が赤くなる。だが、暗闇だから誰にも分からない。


「うん……」


 ヨウの少しざらざらとした肌の感覚。ごつごつとした感覚。そしてぬくもりが伝わって来た。


「……サチコの手は…………柔らかくて小さいな……」


 そしてヨウの手には……小さくて柔らかくて、温かい……愛おしい手の感覚が伝わって来た。


「男女の差だね……」


 そう佐知子が言った所で、使用人小屋の前に着いてしまった。


「ありがとう、送ってくれて」

「ああ……」


 二人は小屋の入口で向かい合う。


「…………」


 しかしヨウは手を離さない。


「ヨウ……手、離して」


 佐知子は苦笑しながら言う。


「…………」


 ヨウは俯いて手を握ったまま、足で地面の砂をザリッと弄った。


「明日も明後日も……私はこの世界にいるよ……多分」

「多分……な」

「うん」


 不安定な、不確定な存在。

 それが異世界から来た少女、佐知子だ。


「仕方ないよ……そればっかりは。神様しか分からない……」


 俯く佐知子。


「……ああ…………」


 ヨウがぎゅっと手に力を込めた。

 まるでヨウが戦に行く時にした佐知子のように。

 そして数秒後……すっと放す。


「おやすみ……また、明日……」


 顔を上げ、ほほえむヨウ。


 そのほほえみは、アフマドが戦死したと告げられた時以来の、ごく普通の人がする穏やかな優しいほほえみだった。


 佐知子は驚いて瞳を見開く。


「……おやすみ」


 そしてぽつりと反射的にそう返すと、ヨウは行ってしまった……。


(……びっくりしたー!)


 佐知子は心の中で叫ぶ。


(ヨウ……またあんな風に笑ったな……)


 何となくヨウがあんな風に笑うときは無理をしている時だと……思ってしまう佐知子。今回も離れたくないのを我慢して去って行ったのだろうか……。


(でも、添い寝までしてあげる訳にもいかないしなー……)


 そんなことを思いながら空を見上げると満天の星空だった。


(はぁー……なんか怒濤の一日だったなー……)


 佐知子は頬に両手を当て思いに耽る。そしてセロの言葉を思い出す。


(能力があるのに使わないのは罪……か)


 頬からするりと両手を下ろす。そして思い出す。あのギドの丘で外交官になろうと決心したことを……。


(あ! 外交官って多言語使えた方がいいよね? やったー! 神様ありがとー! 有利じゃん!)


 そして楽観的に急にそんなことを思う。そして今日、難民の人々に感謝されたことも思い出す……。


(私がこの能力を使えば……助かる人がたくさんいるのか……な)


 佐知子は空いっぱいに煌めく星々を見て思う。


(炊事係の……ままじゃ……いけないよね……)


 そしてそう思い、下ろした手の平をぎゅっと握ると、使用人小屋の重い鉄の扉を開け中へと入ったのだった……。

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