36 ぬくもりを伝えて。
「あの……で、そんなわけで、今ノーラさんの様子見に行ったりしたいので、ノーラさんの事が終わるまで勉強会……お休みにして貰ってもいいでしょうか?」
佐知子がすまなそうに聞くと、
「えー! もう終わったんじゃないの!?」
セロが身を乗り出す。
「いや……まだ息子さん入院してますし……看護婦さんとの通訳とかしないといけないので……」
えーえー! とセロは椅子の上で揺れてふくれている。
「……行ってやれ……アーマ宿舎に入るまで世話してやるといい……」
勉強は落ち着けばまた出来るだろう……と、ヨウはほほえんでシャイをすする。
「……仕方ないなぁ」
セロもしぶしぶ承知した。
「ありがとうございます! ありがとう、ヨウ」
佐知子はヨウにほほえみかける。ヨウは横目で見ていた視線を泳がせながら伏せた。
気まずかった佐知子とヨウの雰囲気も元に戻り、勉強会を黙って欠席した理由も説明し、その後は色々とノーラやアーマやズハンの事などを話し、夜も更けたので夜のお茶会はお開きになった。
「サチコ……送ってく……」
セロの部屋を出るとヨウにそう言われ、佐知子は少し驚く。
「え、いいよ! こんな距離近いし、すぐそこだし」
手を振る佐知子。
「いや……心配だから……」
ヨウは顔を伏せる……。
「…………」
佐知子はお茶会で少し忘れていたが、今日のヨウにかけた心配を思い出す。そして少し俯く。
「じゃあ、お願いしよっかな」
そして顔を上げてほほえんだ。
「あ、ああ……」
「手繋いで行こうか?」
「は!?」
佐知子の突然の提案に、ヨウは大きな声を出してしまい、白い廊下にヨウの声が反響する。佐知子は、ふふふと笑う。
「手繋いで行こう。はい、手貸して」
佐知子は左手を差し出した。
「え、な、いや……」
「ほら、早く!」
佐知子は自らヨウの右手を取った。
自分でもどきどきしていたが、小さな子を……弟をあやす様な気分でいた。
きっと今のヨウは不安で一杯なのだろう。だから最後まで……使用人小屋まで一緒にいたいのだ。だからもっと不安を失くしてあげられる方法を……ぬくもりを伝えてあげようと思った。
私はちゃんとここにいるよ。
と、触れて、手の平越しに体温、肌の感覚で自分を感じさせてあげられれば、不安は大分和らぐと思ったのだ。
「はい、行こう!」
そして平静を装い佐知子は歩き出す。内心どきどきとしているが……。
短い距離をゆっくりと、二人は手を繋ぎながら歩き出した。




