35 胸に刺さるセロの言葉。
久しぶりに食べたバラヴァはアイシャと食べた時とは少し形も味も違っていたが、これはこれで美味しいと佐知子は感じた。甘い蜜が口の中に染み渡る。
(美味しい……)
そう思って、シャイに口をつけると、
「はー、とりあえず満足……で? なんでサッちゃんは今日、勉強会をすっぽかしたの?」
バラヴァをあっという間に三つ食べ終えたセロが、椅子の背もたれに身を預けながら聞いてきた。
「あ、あのですね……」
佐知子はシャイのグラスを置き、セロとヨウを交互に見ながら、昨日のノーラとの出会いから、今日の役場までのことを話した。
もちろん、色んな人の言葉が分かって驚いたことも。
「難民相手にしてたのかー……そりゃご苦労様。しかし、この部屋で言葉が全部日本語に聞こえるって確認したときも驚いたけど、まさか色んな言語の難民の通訳も出来るとかほんと凄いね。それも女神様だからなのかな」
少し茶化すようにセロは笑う。
「神の使いって言え」
セロの言葉に間髪入れずヨウが突っ込む。
「……神様も……少しは手助けするからって言ってくれてたからですかね……」
佐知子が複雑な表情をしながら俯く。
「てかさぁ……サッちゃん、ハーシムさんに頼んでその力使って、そのまま国事部で難民の通訳の仕事したら? 他にも色々、あ、でも、読み書きは出来ないんだっけ」
頬杖をつきながらセロは佐知子に提案するが、読み書きの事に気づく。
「はい……少しは出来るようにはなりましたが……」
頷いて佐知子は答えた。
「でも、炊事係じゃなくてその力有効活用しなよー!」
セロは明るい表情で言う。
「え……いや……私は……今のままで……」
突然の『国事部』との言葉に、佐知子は動揺しながらそう答える。しかし、
「えー! 能力があるのに使わないのは罪だと思うなぁ……俺。特にその力があればたくさんの人が助かるのに」
今度は後頭部で手を組みながらセロは軽い調子で言う。しかし、その言葉は佐知子の胸にずしりと重くのしかかった。
「お前がいうな。能力あるくせにいつも仕事さぼってるやつが……」
すると、ヨウがシャイのグラスを持ったままツッコミを入れる。
「えー、俺はちゃんと仕事してるよー! 休息も仕事のうち!」
にっかりとセロは笑う。
「まったく……気にするな、サチ」
「あ、う、うん。ありがと……」
フォローしてくれたのかな……と、思いながら、ぎこちない笑顔で、ヨウにほほえむ佐知子だった。




