30 元の世界に戻ったら……。
「あ、馬が」
馬が鳴きながら右往左往しているのを、佐知子が気にかける。
「あ、ああ……」
ヨウは鼻息荒い馬を宥めながら側の木に繋いだ。
「ん? ていうかヨウ! この細い道、馬で走ってきたの!?」
ふと、使用人小屋と食堂の間の細い道を見て先程の光景を思い出し、佐知子は驚いて叫ぶ。
「ん? ああ……そうだな……」
ヨウは何でもない事のように返事をする。
「そうだなって……」
唖然とする佐知子。
「夢中だったし……神経張り詰めてたしな……それに戦の時もこういう道たまにあるから……」
ヨウは馬に水をやりながら話す。
(ヨウ凄いな……さすが副長官……ていうか……本当に必死に探してくれたんだな……)
佐知子は本当に申し訳なさを感じた。
「ヨウは……私が今、元の世界に帰っちゃったら、悲しい?」
そんな佐知子の問いにもう辺りは暗闇の中、ヨウはピタリと行動を止める。
そして答えた。
「…………悲しい」
恥ずかしがり屋なヨウがはっきりとそんなことを言うなんて……と、佐知子は少し驚いたが、俯き加減に、けれどはっきりとそう言ったヨウに、佐知子は返事をする。
「私も今、元の世界に戻ったら悲しいよ」
ヨウは顔を上げる。
「だからさっきお願いしたの。全部終わるまで帰さないでね。って、神様に。返事はなかったんだけどね」
ははは。っと、佐知子は笑う。
「それに神様に大戦争回避するの頼まれたんだもん。それ終わるまで戻されないんじゃないかな……だからそんなに心配しないで」
佐知子はほほえむ。
「……それが終わったら……」
「え?」
俯いたヨウの声が小さくて、佐知子は聞き返した。
「……全部終わったら…………サチコは元の世界に帰るのか……?」
「っ……」
顔を上げ、真っ直ぐに見つめられて問われた。
「それ……は……」
佐知子は暗闇でもわかる真剣な瞳で見つめるヨウの問いに、答えを返すことが出来なかった。
自分は全て終わったら元の世界に帰るのだろうか? いや、強制的に帰らされるかもしれない。それが私に与えられた役割なのだから……。




