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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第一章

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30 元の世界に戻ったら……。

「あ、馬が」


 馬が鳴きながら右往左往しているのを、佐知子が気にかける。


「あ、ああ……」


 ヨウは鼻息荒い馬を宥めながら側の木に繋いだ。


「ん? ていうかヨウ! この細い道、馬で走ってきたの!?」


 ふと、使用人小屋と食堂の間の細い道を見て先程の光景を思い出し、佐知子は驚いて叫ぶ。


「ん? ああ……そうだな……」


 ヨウは何でもない事のように返事をする。


「そうだなって……」


 唖然とする佐知子。


「夢中だったし……神経張り詰めてたしな……それに戦の時もこういう道たまにあるから……」


 ヨウは馬に水をやりながら話す。


(ヨウ凄いな……さすが副長官……ていうか……本当に必死に探してくれたんだな……)


 佐知子は本当に申し訳なさを感じた。


「ヨウは……私が今、元の世界に帰っちゃったら、悲しい?」


 そんな佐知子の問いにもう辺りは暗闇の中、ヨウはピタリと行動を止める。

 そして答えた。


「…………悲しい」


 恥ずかしがり屋なヨウがはっきりとそんなことを言うなんて……と、佐知子は少し驚いたが、俯き加減に、けれどはっきりとそう言ったヨウに、佐知子は返事をする。


「私も今、元の世界に戻ったら悲しいよ」


 ヨウは顔を上げる。


「だからさっきお願いしたの。全部終わるまで帰さないでね。って、神様に。返事はなかったんだけどね」


 ははは。っと、佐知子は笑う。


「それに神様に大戦争回避するの頼まれたんだもん。それ終わるまで戻されないんじゃないかな……だからそんなに心配しないで」


 佐知子はほほえむ。


「……それが終わったら……」

「え?」


 俯いたヨウの声が小さくて、佐知子は聞き返した。


「……全部終わったら…………サチコは元の世界に帰るのか……?」

「っ……」


 顔を上げ、真っ直ぐに見つめられて問われた。


「それ……は……」


 佐知子は暗闇でもわかる真剣な瞳で見つめるヨウの問いに、答えを返すことが出来なかった。


 自分は全て終わったら元の世界に帰るのだろうか? いや、強制的に帰らされるかもしれない。それが私に与えられた役割なのだから……。


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