28 忘れていたこと。
帰りにノーラのいる病室に寄り、挨拶をしようと思った佐知子だが、ノーラはいなく、どうしたのかと心配になったが、難民課で受付を済ませた者は皆、日没の鐘の後、役場前に集まって下さいとズハンが言っていたのを思い出し、そこに行っているのだろうと安心し、佐知子は病室で待とうかと思いながらも疲労の限界を感じたので、ノーラの帰りがいつになるかわからないのもあり、今日はもう帰ろうと、ふらふらと使用人小屋に戻り、布をめくった。
「わっ!」
しかし急に、ガッ! と、両肩を掴まれ驚く。
「サッちゃん! やっと帰ってきた!! ていうか元の世界戻ってなかった!! 生きてた! 無事だった!! どこ行ってたの!?」
それはセロだった。
「え……いや……どこって……」
佐知子が驚きながら返答しようとすると、
「今日、勉強会来なかったでしょ? いくら待っても来ないし、何かあったのかなってちょっと心配したけど、そのうち休憩時間にヨウが来て、サッちゃん来ないって話したらあいつ……血相変えて出て行って……まさかと思ったけど、案の定仕事の時間になってもサッちゃん探し回ってたみたいで、部下がヨウ探してて……その後汗だくになったヨウがサッちゃん来たかって戻って来たから、とりあえず休ませて仕事には出ろって言ったけど……荷物はあるのにどこにもいない……また元の世界に帰ったんじゃ……って頭抱えてて……」
セロは気の毒そうな表情で顔を少し伏せる。
「っ……」
セロの様子に、佐知子は次第に事の重大さを感じ始めた。
(そうだ……私、夢中で気付かなかったけど、何も言わずに勉強会すっぽかしてたんだ……今、何時? 日没だよね? だからセロさんとヨウが……心配して……)
どうしよう……と、佐知子は疲労感も吹っ飛んでいた。
「とりあえず落ち着かせたら仕事には出たけど、あいつ休み時間中、ずっと街中探して、俺も探して……今は俺がここで帰ってくるかもしれないから待機して、ヨウが街と近辺必死に探してるよ……」
セロは言い終わると、するっと掴んでいた佐知子の両肩の手を放した。
「……すみません……黙って勉強会休んで……ちょっと……事情があって……」
二人がそんなに心配しているとは思わずに、佐知子は申し訳なさでいっぱいになった。
「うん……俺はまぁ……いいけど……早くヨウに顔見せてあげて……」
はぁー! と、盛大に息を吐きながら、共有スペースの絨毯の上にドスンと座り、前髪をかきあげるセロ。
「セロさん! ヨウは今どこに!」
佐知子は大声で問う。
「んー! わからん! あっちこっち馬で駆け回ってるから! あ! サッちゃんはここから動いちゃダメだよ! 行き違いになるからね! だから俺がここで待機してたんだから!」
「っ……」
セロの忠告に佐知子はしゅんとしながら、それでもじっとしていられなく、
「そ、外でヨウ待ってたらダメですか? 入口で……」
と、おずおずと問う。
「んー……すぐそこに居てよ! 遠く行っちゃダメだからね!」
「はい!」
セロに了解を貰い、佐知子は布をめくり外に出る。辺りは暗くなりはじめていた。涼しい風が佐知子の頬を撫でた。




