21 神様の手助け。
「うわぁ……」
「あらぁ……」
二人は難民課につくと、そんな声をもらした。
難民課が一番端の理由を、佐知子はすぐに理解した。
行列の人の多さと、異臭……ずっと旅をしてきた人達が、そのままここに来て大勢集まったせいだろう。
入院した息子の付き添いの為にハンムに入り、食事を取り、きちんとした布団で寝て難民課に来たノーラは珍しい例だ。
ほとんどの者が皆、身体を清潔にする事も、食事も出来ず、布団で眠ることも出来ずにここ、難民課に来たのだ。
「……とりあえず……列に並びましょうか」
「ええ……」
そうして最後尾にならんだ佐知子とノーラだが、佐知子はあることに気がついた。
「ママー! ママー! まだなのー? お腹すいたよー!」
「がんばって、ここでアーマ宿舎に入られれば、おいしいごはんとお布団が待ってるからね」
「あと何時間くらいかしらね……」
「時間も時間だし明日になるかもな……はぁ……今日も野宿か……」
「おいまだかよ!」
「もう少しよ……がんばって……」
「うん……」
佐知子は前や隣の列の人々の声を聞いて、この世界に来た最初の頃、セロとヨウと話した事を久しぶりに思い出した……いや、でも……と、心の中で思いつつも、確認の為、ノーラに質問をする。
「あの……ノーラさん、横の列の親子とその前の男女……同じ言葉……言語で話してます?」
ノーラを問われた人達の言葉を少し聞き、そして返ってきた答えは……
「いいえ、多分、別の言葉よ? 私には何語かわからないけれど……」
うわっ。と、佐知子の腕に鳥肌が立った。そして少し目を見開く。
佐知子にはおそらく、今、ここにいる難民の全ての言葉が分かる。
そう、すっかり佐知子は忘れていたが、この世界に初めて来た時、幼いヨウに貰ったぶどうを食べた為か、二回目にこの世界に来て、セロに荷物を見せた時に、この言葉の不思議現象を発見したのだった。
佐知子には、おそらくこの世界の全ての言葉が日本語で聞こえ、そして相手には相手の話したい言葉、話せる言葉で聞こえるのだ。
「サチコ? どうしたの? 大丈夫?」
黙って硬直している佐知子に、ノーラが心配そうに声をかけた。
「あ……はい」
受け入れるのに少し時間はかかったが、なんとなく受け入れられた。きっと、神様が言っていた『たまに手助けするから』の一つなのだろうと、そう思うことにした。




