20 役場。
佐知子は役場に来るのは初めてだった。建物はいつも見かけていたが、中に入ると中はざわざわと人の声が騒がしく、大勢の人が各窓口にならんで順番を待っていた。
役場の内部は外と同じ黄土色のレンガで出来ていて、各課の窓口はレンガの土台と石のテーブルが数個置かれ、間隔を空けて各課に分けられている。椅子とテーブルの形式で、丸椅子に座った住民がテーブルを挟み役人と話をしていた。
まだ佐知子には難しくて読めない文字もあるが、各窓口の一番端のテーブルに何課か書いた石の看板が置いてあり、何課かわかるようになっている。
ざわざわと人が行き交う中、戸惑う佐知子とノーラ。
(あ!)
すると佐知子が勉強したおかげで読めた、アズラク語の『案内所』という単語を見つけた。
「ノーラさん! とりあえずあそこに行きましょう!」
佐知子は勉強がちゃんと身になっている嬉しさと、どこに行けばいいのかわかった嬉しさを感じた。
案内所は比較的空いていて、前に二人いるだけだった。ただ難民課の場所を知りたいだけなのになぁ……と思いながら、言葉がわからないって不便だな……大変だ……と、ノーラの事もあり、佐知子は痛感した。
そうこうしていると、前の人が去り、佐知子たちの番になった。
「すみません、難民課がどこにあるか知りたいんですけど、文字が読めなくて……」
と、佐知子が聞くと、
「難民課は右奥の突き当たりです。壁際に列が出来ているのですぐに分かると思います。ご質問は以上ですか」
と、青い目をしたアフリカ系男性が冷たい表情で淡々と伝えてきた。
「……はい……わかりました……ありがとうございます……」
おずおずと佐知子は後退しながら右へと向かう。いつかの使用人小屋での『国事部のやつらは……』という言葉を思い出す。
(案内所って、普通もっとにこやかじゃない? 何なの? 今までの人もそうだったけど、何なの国事部の人達!)
佐知子は怒りよりも驚きと困惑を抱いていた。
「サチコ、サチコ! どこにあるって?」
するとノーラが声をかけてくれたので、現実に戻れた。
「あ……えっと、あっちの一番奥にあるらしいです。列出来てるから分かるだろうって……」
と、そこまでいって佐知子は、え……と思う。
「まぁ、列……人多くないといいけれど……」
ノーラも不安そうだ。
「……とりあえず、行ってみましょう!」
佐知子は明るく努めた。




