18 あーまの宿舎。
庭は近づくにつれ、とても綺麗で、いい香りで、綺麗に区分け、手入れされていることが分かった。
「あ、あの……トト……さん?」
佐知子に背を向けしゃがみ込み、庭仕事に夢中のトトの背中に、佐知子は声をかけた。トトはその声にビクッとすると振り返った。
「……君は……」
汗まみれのトトは、振り返ると逆光で眩しく眼鏡の奥の瞳を少し細める。
「あ、あの! 覚えてますか! 私がこの世界に来て、あ、二回目に来た時に、ヨウに連れられて会議室で一度会ったことがあるんですけど! サチコと言います!」
慌てながら佐知子は自分のことを説明する。
「ああ……うん、覚えてる……」
トトはゆっくりと立ち上がる。佐知子は一気に見上げる高さになったトトに驚きながらも、焦らず言葉を続ける。
「あ、あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?」
「うん……別にかまわないけど……」
トトは額の汗を、泥だらけの手の甲で拭いながら答える。額に泥がついた。
「あの、先日、難民の親子を助けたんですが、今、入院してるんですけど、二週間したら退院で、退院したら行く当てがなくて、でも、この村は難民を受け入れてるって話を聞いて、それで……どうしたらいいか、どうにかできないかとカーシャさんに聞きに行ったんですが、診察中で……」
佐知子は必死にトトの赤い瞳を見て話す。
赤い瞳は綺麗で、神秘的で、少し怖くて妖しくて、吸い込まれそうだった。
でも、今はそんなことを考えている場合ではない。
「ああ……それなら役場の難民課に行くといいよ……あそこでアーマの宿舎に入れてもらえるから……」
低い声で、静かに落ち着いて話すトト。
「あーまの宿舎?」
何の事か分からず、佐知子は少し眉間に皺を寄せる。
「うん」
トトは佐知子の顔を見て返事をする。
佐知子は何の事か分からないが、とりあえず役場の難民課に行けばなんとかなる事は分かったので、これ以上、迷惑はかけられないと思い、笑顔でお礼を言う。
「わかりました! ありがとうございます! 難民課、行ってみます!」
嬉しそうに頭を下げ、佐知子はノーラの元へと駆け出した。




