7 夢じゃない。
「……すか……ですか……」
(声が……聞こえる……)
「大丈夫ですか!」
「!」
佐知子は瞳を開いた。
目の前には青い空。眩しい太陽。暑い。
しかし、違う。違う暑さだった。青だった。
「あ、よかった! 目覚ました! 大丈夫ですか!? 今、救急車呼びましたから!」
「え?」
ゆっくり上半身を起こした佐知子がいたのは、見なれた街並みだった。
アスファルトの地面に、コンクリートの塀、並ぶ木々、照りつける太陽、まとわりつくような湿度の高い日本の暑さ。
そして側には倒れた自転車、投げ出されたオレンジのリュック、地面に座っている自分。
おろおろと心配する自分より少し年上の眼鏡をかけた青年。
そして周りを取り囲む野次馬の人々……。
「すいません! ちょっと急いでて! ぶつかっちゃって! 大丈夫ですか!」
その言葉でようやく意識がはっきりしてくる。
(え? ヨウくんは? え? 何で? さっきまで……)
「あの……」
ぼんやりとしていると、少し年上の青年は心配そうに佐知子の顔を覗いた。
(ああ、そうだ……腕輪見て目瞑ってたら自転車でぶつかって……じゃあ、気失ってる間の夢か……何かか……)
何だぁ……と、佐知子はぼうっとした頭で後頭部をかく。
「!」
しかし、そこでハッとした。
(スカーフがない!)
思わずある筈の胸元を押さえる。
そう、制服の赤いスカーフがないのだ。
え? え? と、佐知子は外れたかと思い辺りを見渡す。しかし見当たらない。
そして視界に入ったリュックを見て、ひゅっと息を吸い込んだ。
そこには、何かに噛みつかれ、引き裂かれようとした跡が……はっきりと残っていた……。
(夢じゃ……ない……?)
佐知子は立ち上がった。
「え! あの! 動かないほうが!」
「大丈夫です! 帰ります!」
「え!」
事故相手は唖然としていた。
「いや! 救急車呼びましたし! 病院行った方が! 警察も呼びましたし!」
「大丈夫です! 帰ります!」
慌て困る青年の言葉を無視し、自転車を立て直しリュックを掴んで自転車のカゴに入れると、佐知子はすみません! と一言残し、急いでその場を後にした。