13 どうか幸せに。
「で、ですね、息子さんなんですが」
その言葉で佐知子は目の前のことに意識を戻す。
「さきほどお話したように、伝染病の疑いや肺炎もないんですが、とりあえず隔離病棟に入院させました。一週間ほど様子を見ましょう。おそらく重度の風邪と栄養失調だと思うので、順調に食事をとり、療養すれば二週間で退院できると思います」
佐知子はアドルフ医師の言葉を聞きながら、それをノーラに伝える。ノーラは胸の前で両手を握り、頷いていた。
「お母さんは……あまりおすすめは出来ませんが、行く場所もないでしょうし、ここで寝泊まりしてもらってかまいませんよ。息子さんのことも心配でしょうし。息子さんもお母さんがいないと泣いてしまうでしょうから、食事も出しますので」
それをノーラに伝えると、
「本当に? いいの? ああ、本当に! 本当にありがとうございます!」
ノーラは両手を合わせ拝んでいた。
「気にしないでください。ただし、お母さんには一日一回、診察を受けてもらいます。ここは伝染病の隔離病棟なので、感染する可能性もありますので」
そう佐知子が伝えると、
「はい! はい! 何でもします! 何でも!」
「だ、そうです」
佐知子は苦笑して伝える。
「では、今日は食事をして、ゆっくり眠って下さい。あとで、食事と布団をお持ちします」
そう伝えると、アドルフ医師は去って行った。
「あとで、ご飯と布団を持ってくるから、今日はゆっくり眠って下さいですって」
よかったですね。と、佐知子も嬉しくてほほえむ。すると……
「こんな……こんなことって……あるのかしら……本当に……本当に……」
ポロポロと……ノーラは涙を流しだした。
その涙に、佐知子は心を打たれる。
「ノーラさん……今まで苦労した分、この村で……たっっくさん! 幸せになってくださないね! ユースフくんと!」
佐知子も泣きそうになりながら、再度、ほほえむ。
「…………」
その言葉に、ノーラは涙を止めてきょとんとする。考えもしなかったのだろう……しかし……残った涙をこぼしながらほほえみ……。
「ええ……ほんとうに」
と、そう、答えた。




