11 母の愛。
ノーラさん! ナッツも食べてください! ナッツは栄養あるんですよ! え、で、でも! などと二人が待合室でやっていると、
「あなた達が急患のお子さんのお母さんと付き添いの方?」
と、看護婦が来て、声をかけてきた。
「あ、はい! そうです! こちらがおか……母親の方です!」
佐知子は立ち上がり、片方の手の平でノーラを指す。
「息子さんの準備が整いました。病室へどうぞ」
日本人によく似た極東アジア系の、少しきつい印象の眼鏡をかけた看護婦は、二人が準備するのを待つ。
「息子さんの準備が整ったそうです! 会えますよ!」
「本当!?」
ノーラは慌ててドライフルーツとナッツの袋をたたむと、佐知子に渡し、立ち上がる。佐知子も急いで革のカバンにしまった。
「行けますか?」
看護婦はそう問う。
「はい! 行けます! 行けますよね? ノーラさん」
「ええ!」
ノーラは頷いた。
「では、こちらへ」
看護婦は反転し、歩き出す。
隔離病棟は、一般病棟から少し離れたところにあった。
一旦、外へ出て、レンガの道を歩くと、隔離病棟らしきレンガの建物が見えてきた。看護婦とそこへ入る。
中は個室になっていて、扉のついた部屋がずらりといくつも並んでいた。
「ここに入る時と出る時は、ここでしっかり石鹸で手を洗ってうがいをして下さい。必ず」
すると、入口の水場で看護婦に真剣にそう言われた。
「は、はい!」
佐知子は先ほどの医師の『疫病』という言葉を思い出し、隔離病棟という意味の怖さを少し痛感した。
ノーラにも説明すると、わかったわ。と、しっかりと返事をした。
そして二人で手洗いうがいをし、隔離病棟へと入る。入って一番手前の、右の部屋へと通された。
そこは簡素なアズラクランプがほんのりと灯す、白い小さな部屋だった。
中に入ると、そこにはおそらく中に鉄の棒が入っているだろう、草のつるで編んだベッドに、ノーラの息子、ユースフが寝ていた。
壁には棚のくぼみが空いていて。六畳ほどの大きさだろうか。
「ユースフ!」
そう叫びながら、ノーラはベッドへと、息子の元へと駆けて行く。
「ユースフ……お母さんがわかる? ユースフ……ああ……顔色がこんなによくなって……荒い息もしてないわね……ああ、本当によかった……この村の噂を聞いて来て、本当によかったわね、ユースフ……」
寝ている息子の頭を優しく撫でながらほほえみ、涙を流し、ノーラは囁くのだった。




