9 過酷な旅の証。
「おまたせー!」
待合室に誰もいなくなり、少し装飾のされたアズラクランプが煌めく中、佐知子がうとうととしていると、ダリアの陽気な声が響いた。
「!」
ハッとして佐知子は瞳を開く。
振り向くと、そこには先程の黒いぼろ布を頭からまとった姿ではなく、白いカンラを着た、綺麗になった黒い肌に、長い黒髪を後ろで束ねた緑の瞳が美しいノーラがいた。
「ノーラさん!」
「なんだか……こんなに綺麗にしてもらっちゃって……申し訳ないわ……」
ノーラはおろおろとしている。
「いや! 綺麗ですよノーラさん! 美人さんですね!」
「やめてよ!」
少し困った様子でノーラは手を振る。
しかし、その手は、腕は、あまりにも細くて……指も細い……ここまでの過酷な旅を物語っていた。
「今まで着てた服は捨てていいか聞いてくれる?」
するとダリアが佐知子に問う。
「あ、はい。ノーラさん……」
「あ、ええ、いいわ。こんな立派な服を頂いたんだもの。代えの服まで……本当にありがたいわ……」
ノーアはダリアに手をあわせてお辞儀をする。
「いいそうです」
「わかったわ。じゃあ、息子さんの病室の準備ができるまでここで待っててね」
ダリアは手を振り笑顔で去っていこうとする。
「ありがとうございました」
「ありがとうございます。感謝しています……言葉は通じないだろうけど……」
少し悲しそうに、ノーラはほほえむ。
佐知子とノーラは、待合室の絨毯に座った。




