5 病院へと。
女性を立ち上がらせ、病院へと案内する佐知子。
女性が抱える息子、三歳くらいの男児はぐったりとしていた。事態は深刻そうだった。二人は自然と早足になる。
「ここが病院です!」
佐知子は閉じている重い鉄の扉を開ける。そして中に入ると、受付の人に事情を説明した。
受付は壁に面して作られた、レンガに白い漆喰が塗られた大きめのカウンター。その中にいる、受付の褐色肌の中年の女性は、切羽詰まった様子の二人を見ると、受付の中から出てきて、アフリカ系の女性が抱えている息子を見る。
脈や呼吸、閉じている瞳などを見ると、ちょっと待っててね。と言い、奥へと消えて行った。
「…………」
二人は不安な気持ちでそこに佇む。すると受付の人が戻ってきた。
「今、緊急診察室開けたから、一緒に来て!」
「はい!」
佐知子は少し早めに歩く受付の女性の後に続こうとした。しかし、アフリカ系の女性は不安そうな表情でおろおろとしている。
(あ、言葉がわからないんだった……)
「診察室に来てくださいだそうです!」
慌てて佐知子は通訳し、受付の人を見失わないように、小走りに手招きをする。
「あ! わかったわ!」
その女性は状況を飲み込み、佐知子の後に続いた。




