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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第二部 第一章

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3 緑色の潤んだ瞳。

「お願いします! 薬を! 薬を恵んでください!!」


 女性はしゃがみこんで額を地面につけ、必死に頼む。


「だからなんなんだよ! おい誰か! 軍警察か役場の人間連れてきてくれ!」


 店主も困っていた。


(……どうしよう)


 佐知子は戸惑いながら顔をふせる。


 遠目から見ているだけだが……自分は二人の会話がわかるのだ。多分、通訳出来るだろう……流れ着いたボロボロの女性の息子は病気らしい……三日の熱、食べ物も受けつけない……。


『死』という言葉が佐知子の脳裏をよぎった……。

 アフマドの最後の姿を思い出した。


(っ!)


 佐知子は意を決した顔をバッと上げた。そしてその人混みへ早足で歩いて行く。


「あ、あの!」


 徐々に増えた野次馬をかきわけ、佐知子は二人の元へとやってきた。


「あの……その方……息子さんが熱で、食べ物も受けつけなくて……薬をくださいと言っています……多分、このお店を薬屋さんと間違えてるんだと思います……」


 勢いで来たはいいが、大勢の前に出るとやはり緊張する。佐知子はぎゅっと革のカバンの取っ手を握りながら、おずおずと言う。


「……なんだ嬢ちゃん、この人の言葉がわかんのかい」


 店主は驚いた顔をしている。


「あ……はい」

「あなた! 言葉が通じるのね!! お願い! この子を! この子を!!」


 すると、しゃがみこんでいたアフリカ系の女性が這いずって、佐知子の足にすがりついてきた。


「え、あ……」


 動揺する佐知子。


「子供が病気なら病院に連れていってやんな。年中無休だからまだやってるよ。ったく、うちは香草屋だってーの……」


 ほら、ちったちった。と、香草屋の店主は野次馬にしっしっと手をふる。野次馬たちもそういうことか……と、去って行く。


「え……私が?」


 佐知子は、足にしがみつく女性と取り残され、どうしていいかわからず、ぽつんと、その場に佇んでいた。


「……お願い……この子を……助けて……」


 しかし、小さな涙声で聞こえたその言葉で足元を見る。女性は震えて泣いていた。その光景を見て、佐知子はぐっと口を引き結ぶ。そしてしゃがみこんだ。


「あの……大丈夫ですよ。この村には二十四時間やってて、無料で見てくれる病院があるので、そこで息子さん見てもらいましょう? 私が案内しますから」


 そう言うと、その女性はパッと顔を上げた。


 女性は綺麗な緑色の瞳をしていた。瞳は涙で潤んでいる。ヨウと同じ緑色の瞳。でもこの女性の方が明るい緑色だった。

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