3 緑色の潤んだ瞳。
「お願いします! 薬を! 薬を恵んでください!!」
女性はしゃがみこんで額を地面につけ、必死に頼む。
「だからなんなんだよ! おい誰か! 軍警察か役場の人間連れてきてくれ!」
店主も困っていた。
(……どうしよう)
佐知子は戸惑いながら顔をふせる。
遠目から見ているだけだが……自分は二人の会話がわかるのだ。多分、通訳出来るだろう……流れ着いたボロボロの女性の息子は病気らしい……三日の熱、食べ物も受けつけない……。
『死』という言葉が佐知子の脳裏をよぎった……。
アフマドの最後の姿を思い出した。
(っ!)
佐知子は意を決した顔をバッと上げた。そしてその人混みへ早足で歩いて行く。
「あ、あの!」
徐々に増えた野次馬をかきわけ、佐知子は二人の元へとやってきた。
「あの……その方……息子さんが熱で、食べ物も受けつけなくて……薬をくださいと言っています……多分、このお店を薬屋さんと間違えてるんだと思います……」
勢いで来たはいいが、大勢の前に出るとやはり緊張する。佐知子はぎゅっと革のカバンの取っ手を握りながら、おずおずと言う。
「……なんだ嬢ちゃん、この人の言葉がわかんのかい」
店主は驚いた顔をしている。
「あ……はい」
「あなた! 言葉が通じるのね!! お願い! この子を! この子を!!」
すると、しゃがみこんでいたアフリカ系の女性が這いずって、佐知子の足にすがりついてきた。
「え、あ……」
動揺する佐知子。
「子供が病気なら病院に連れていってやんな。年中無休だからまだやってるよ。ったく、うちは香草屋だってーの……」
ほら、ちったちった。と、香草屋の店主は野次馬にしっしっと手をふる。野次馬たちもそういうことか……と、去って行く。
「え……私が?」
佐知子は、足にしがみつく女性と取り残され、どうしていいかわからず、ぽつんと、その場に佇んでいた。
「……お願い……この子を……助けて……」
しかし、小さな涙声で聞こえたその言葉で足元を見る。女性は震えて泣いていた。その光景を見て、佐知子はぐっと口を引き結ぶ。そしてしゃがみこんだ。
「あの……大丈夫ですよ。この村には二十四時間やってて、無料で見てくれる病院があるので、そこで息子さん見てもらいましょう? 私が案内しますから」
そう言うと、その女性はパッと顔を上げた。
女性は綺麗な緑色の瞳をしていた。瞳は涙で潤んでいる。ヨウと同じ緑色の瞳。でもこの女性の方が明るい緑色だった。




