2 ある日の出会い。
(ナッツとドライフルーツが安く買えた! やった! やった!)
その日、佐知子はセロとの勉強会の後、スークに行き、おやつの買い出しをしていた。
大体この村の物価も分かって来て、家計簿の様な物もつけ出し、ヨウに少しずつ、この世界に来た時に借りたお金も返し出していた。
生活は安定していて、順調だった。
ただ、頭の隅には常にこのままでいいのか……どうすれば外交官に……という想いはあった。だが、毎日の仕事もあり、勉強や、生活もあり、微妙に忙しく、ずるずると毎日が過ぎてしまっている。
そんなある日のことだった。
「お願いします! 薬を! 薬をください!! お金はありませんが! あとできっと! きっとなんとかしますから!!」
スークを歩いていた佐知子の耳に、そんな悲痛な女性の声が飛び込んできた。
最近買ったトートバッグサイズの革のカバンを手に持ちながら、声が聞こえた方を見ると、そこには少し人だかりが出来ていた。
「だーかーらー! お前ぇさんの言ってる言葉がわからねぇんだよ! 何が欲しいんだい? おい! 誰か言葉のわかるやつぁいねぇのか! あんたどこらへん出身だい?」
「息子が病気なんです! 風邪か……何かわからないんですけど! もう三日も熱が下がらなくて! 食べ物も食べないし! どうか薬を!!」
そこは調味料の香草屋だった。そこの香草屋にしては恰幅のいい店主と、どこからか今日、流れ着いたのか、ボロボロの黒い布を頭から被り、裸足で、荷物は何も持っていなさそうなアフリカ系の女性が、子供を抱えてそう訴えている。軒先にたくさん乾燥させた香草を並べていたから、薬草と間違え、薬屋と勘違いしているのだろう。
しかし、佐知子には不思議な光景だった。何しろ二人の会話がちぐはぐというか……噛み合っていないのだ。
佐知子には二人とも日本語で話しているように聞こえる……だが、話の内容からするとどうやらそうではないらしい……二人は別々の言語を話していて、言葉が通じていないようだ。
佐知子は戸惑いつつ、この世界に来た当初に、セロの研究室でヨウと三人で、話したことを思い出す。
佐知子には、この世界の言葉がすべて日本語で聞こえ、話せるのだ。
だからおそらく、この二人は別々の言語で話していて、言葉が通じないのだろう……。
そんなことを思っていると、事態は進展して行った。




