6-1 野犬狩りと馬上の男性。
次々に野犬に矢が刺さり、倒れ、のたうち回る野犬もいれば必死に逃げようとする野犬もいる。あたりには野犬の甲高い悲鳴が次々、響きだした。
「一匹も逃がすなよ! 徹底的に殺せ!」
空から降りそそぐ矢によってある程度の野犬が倒れると、低い男の声と共に一斉に木の脇の岩山から多数の人が現れた。
「!」
目の前の犬が血を流しもがき苦しむ地獄絵図ともいえる光景に呆然としていた佐知子は、その声に体をびくつかせると、とくに理由もないのだがとっさに近くにあったリュックを掴み抱え、身を縮めた。そして現れた男たちを見る。
逃げようとする野犬を追い矢で射る者。
動けなくなった野犬に返り血を浴びながら鋭利な刃物でトドメをさす者。
数を数える者。
呑気に談笑している者……。
よく見ると、全員男の様だった。
しかも体つきのいい武装した、アフリカ系、白人、黄色人種にアラブ系もいる。
いろんな人種の人が混じっている。
皆、ガラが悪そうな……一般人ではなさそうな風体だ。
佐知子は現れた男達にもだが、目の前で繰り広げられる野犬への残虐な行為に肩に力が入り顔が歪む。
思わず目を背けた。
なんとなく一難去ってまた一難な気がしたので、そっと立ち上がり去ろう。佐知子はそう思い立ち上がろうとしたのだが……
「よう、お嬢ちゃん! 危なかったなぁ!」
「!」
突然、馬が佐知子の脇に止まった。
そして、その馬上から声をかけられる。
逆光でうまく見えないその男はそれでもかなり大柄なことはわかった。
男は、よっと。と、言いながら馬から降りる。案の定、かなり大柄だった。
そしてはっきりした男の風貌は、背は百九十センチメートルはあるだろうか、人種は黄色人種の極東アジア系だった。
佐知子はその時、この世界にも佐知子がいた地球と同じ人種がいる事を見てはいたがようやく頭で理解した。
今のところアフリカ系、白人、黄色人種、アラブ系を確認している。
しかも、ここではそれらの人種がごちゃまぜで共存してるようだ。
「怪我はないかい?」
極東アジア系……日本人に近い容姿のその男性は、黒い瞳に長い黒髪を後ろで縛り、どこか昔の中国のような服装と武器を持ってその大柄な体を少し屈めて、座り込んだ佐知子に手を差し伸べた。
「……はい、大丈夫です」
その手を掴んでいいものか悩みながら軽く掴み、リュックをぎゅっと抱えて佐知子は立ち上がった。
「そこのガキも大丈夫かー!」
大柄な男は木の上のヨウにも気がついていたらしく、声をかけた。
「今、下ろしてやるからな」
そう言うと、ほれ。と、両手を伸ばす。
男は軽々とヨウをおろしてしまった。
「……兄弟……じゃねぇよなぁ?」
男は二人を見て顎に手をあてる。その声を聞いて佐知子はハッとする。
「助けていただいてありがとうございました! すみません! それでは!」
この人は悪い人ではなさそうだが、関わらない方がいい。なんとなくそう思った。だから早々にヨウの手を引いて立ち去ろうとしたのだが……
「まぁ、待て待て。そのガキ、ぶっ倒れそうだぞ?」
その声を聞いて、佐知子は、え? とヨウを見る。
ヨウの顔色は真っ白で、立っているだけでふらついていた。
「ヨウくん! 大丈夫!? 血、出すぎたかな……やっぱりお医者さんに見てもらわないと……どうしよう……」
「おねえちゃん……」
しゃがんでヨウの顔を覗き込んだ佐知子の袖を、不安そうにぎゅっと掴みながらヨウは佐知子にもたれかかり、か細い息をしていた。