10 神様の外交官。
そして、思い切って伝える。
「……あの……神様がね……私なら色々……戦止めたり、変えたり、大戦争……回避することが出来るから……改めてやってくれる? って……ここにくる前も聞かれたことなんだけど……また聞いてきたんだ……」
佐知子はうつむき、乾いた黄土色の地面を見つめる。
「実際、戦、経験してみて……看護係の仕事してみて……アフマドさんのことがあって……私も……戦なくしたいって思ったから、はいって……答えたの……出来ないかもしれないけど、出来る限りのことはします……って……」
佐知子は急に不安になってきた。
「ねぇ……ヨウ……出来るかな……私に……そんな大それたこと」
佐知子は少し困ったような、自嘲的な笑みを浮かべ、ヨウを見た。
ヨウは真剣な顔をしていた。そんな表情に、佐知子はやはり自分には不相応なことをしようとしていると思い、真顔になり、気まずくなって俯いた。
「……それは……かなり大変なことだと思う……」
「……うん」
言わなきゃよかったかな……と、佐知子は後悔する。
「でも……サチコが本気で戦をなくして……大戦争を回避しようとするなら……これから……どんな状況でも…………たとえこの世のすべてがサチコの敵になっても……俺は、サチコの味方だし……この命が尽きるまで…………俺は……サチコをずっと……側で支える……」
「…………」
その言葉に、佐知子は驚いたような表情でバッと顔を上げた。
「だから……どうかこの世界から戦をなくしてくれ……サチコ」
真剣な表情で佐知子を見つめていたヨウは、やわらかく、やさしくほほえんだ。
「ありがとう……」
佐知子は瞳に涙をため、涙声でほほえんだ。
なくそう……この世界から戦争を……まずはこの村から戦を……。
神様がくれたヒント。
戦争を回避するには外交が大切……。
(外交……外交かぁ……外交するには外交官になるしかないよねぇ……この村の外交官に……なる……の? 私が? なれるの? 今から? 使用人から? えぇ~……)
「……なんだ? また、ラハーフと話してるのか?」
崖から難しい顔で佐知子が村を見つめ考えていると、少し含み笑いをしたヨウが佐知子に問う。
「え! あ! 違うよ!! 違う!! ちょっと考えごと!」
「……わかってる」
ふふっとヨウが明るく笑った。
「……もー!」
ヨウもそんなことを言ってこんな風に笑うんだな。と、驚きつつもおかしくて、佐知子は笑いながらヨウの二の腕を拳で軽く小突く。
ヨウは穏やかに笑っていた。
佐知子もほほえみ返す。
(でも……やるしかないよね……)
なろう、外交官に。
佐知子はこの世界に来た時も、それからも、どんな時もいつも変わらない、まぶしい太陽と、高く綺麗な青い空を見上げて思ったのだった。
第一部 完