9 神様との会話。
『あ、心の中で喋ってくれればいいからね』
(……はい)
試しに佐知子は黙って村を見つめ、心の中で返事をしてみた。
『久しぶりねー! サッちゃーん! 元気ー? って、全部見てたけど」
神様は陽気にうふふふーと、語尾にハートマークでもついてそうな声で佐知子に語りかける。
(神様……も、お元気そうで……)
『私はいつでも元気よー、神様だものー』
(そうですか……)
今までの切ない気持ちはおかまいなしの返事が返ってくる。
『で、どう? 戦争体験してみて……まぁ、戦争って規模じゃないし、あなたは戦場行ってないけど』
「!」
急に真面目な声のトーンと話題になり、佐知子は体に力が入った。
(……辛くて……悲惨でした……怪我人もたくさんでるし……人が……亡くなるし……)
そして、ゆっくりと体の力を抜きながら俯き、心の中で神様に語る。
『そう……でも、隣にいるヨウくんが行った戦場はもっと悲惨よ。戦争になればもっと規模も大きいし、戦争以外にもこの世界には……まぁ、あなたのいた世界でもそうだけど、悲惨なことはもっとあふれてる。で、この世界では、あなたにはそれを止めたり、変えて救うことができる……かも、しれないんだけど、あらためて問うわ。大戦争、回避してくれるかしら?』
「…………」
最初も問われたその問い。
最初はそんなことできないと断った。けれど、今は思う。出来ないかもしれない……今の私にはおそらく出来ないだろう……でも、このまま何もしないでいるのは嫌だ。このまま、また戦が起こり、ヨウが、兵士の人々が戦場に行き、傷つき、人を殺し、殺され、また人が亡くなる……そしてそれが続き、大規模になり、この村の人が、国の人が、世界の人が……亡くなる。それを見ているだけなのは……嫌だ。
佐知子は太陽と、高く青い空と、村をぐっと睨むように目に力を入れ、答えた。
(はい! 出来ないかもしれないけど、出来る限りのことはします!)
どうにか出来るならしたい……自分は元々、そのためにここに送られたのだ……全力は尽くす。佐知子はそう決心した。
『出来ないかもしれないけどって……相変わらず微妙な返事ねぇ……まぁいいわ! やる気はあるみたいだし。変われば変わるものね! 私もたまに手助けするから、頑張ってね! じゃあ、神様からヒントを授けます。戦争を回避するには外交が大切です! まずはこの村からだけど、頑張ってねー! まったねー!!』
「え! えっ!? ちょ!」
佐知子は思わず声に出してしまった。そして周囲をきょろきょろと見渡す。
「……どうした? さっきから……」
さっきから不可解な言動行動をしている佐知子に、ヨウはいつもの真顔で問う。
「あ~……」
佐知子は言うか言うまいか悩む。すると、
「……何か……ラハーフからお告げでもあったか……?」
「え!」
思わず佐知子はヨウを見て叫んだ。
「……やっぱりか……」
「お告げっていうか……あの……え、なんでわかったの……?」
動揺しながら佐知子はヨウを見る。
「いや……神様ってつぶやいたあと、ずっと黙ってたから……会話でもしてるのかな……って……」
場所も場所だし……とヨウはギドを見て、ごく当たり前のことかのようにいう。それが佐知子には驚きだった。
「いやいやいや! そんな当たり前に受け入れないでよ! 普通、神様とかお告げとかそんな簡単に受け入れないでしょ!」
「いや……まぁ……サチコだし……」
ヨウは首の後ろに手を当てながら言う。
「え?」
その言葉に佐知子の眉間に皺が寄った。
「他の奴なら何言ってんだってなるけど……サチコだし……」
「…………そう……だね」
ヨウには自分は子供の頃、目の前で消えたり、十年後にその頃と変わらぬ姿で現れたりしたことを思い出し、実際に自分は異世界から来たし神様と会話してるしなぁ……などと、佐知子は急に冷静に思い、落ち着きを取り戻した。