8 気持ちの整理。
「なんでここに来たの?」
風になびく髪を耳にかけながら、佐知子はなんとなく思った疑問をヨウに投げかけた。
「…………」
ヨウは無表情で黙り込む。
(え……?)
黙り込んだヨウに佐知子は焦る。聞いちゃいけなかったかな? と。
「……俺は……何かあったりすると、必ずここに来るんだ…………嬉しいことでも、悲しいことでも……何か節目だったりでも……」
それを聞いて、あ……と、佐知子は今日のアフマドのことを思い浮かべる。
「だから……今日もここに来た……ここに来てギドに手を合わせて、ここから村を見てると気持ちの整理がつくんだ……」
ヨウの少し長い前髪が風になびいた。
「……そっか……あ! じゃあ、私、ついて来てよかったの? 邪魔じゃなかった!?」
慌てて佐知子は問う。
「……今日は……サチコと来たかった……」
ヨウは佐知子を見て、小さくそう言い、やわらかくほほえんだ。
「…………」
そんな言葉と、無表情でもかっこいいヨウに柔らかくほほえまれ、佐知子は言葉を詰まらせて、少し瞳を見開き顔を赤くして俯いた。
「……そう」
佐知子が小さくそう答えると、
「……アフマドとは……八年くらい前に出会ったんだ……」
村を見つめながらヨウが語りだす。
アフマドという単語に、佐知子は真面目にヨウを見た。ヨウはいつもの無表情ともとれる真顔で、淡々と話す。
「まだ村ができて間もない頃に……旦那さん亡くしたアイシャさんと二人で村にきて……昔からあんな性格でさ、誰とでも仲良くなって……こんな俺にもちょっかい出してきて……何が気に入ったのかほっとけばいいのにやたらかまってきて……アイシャさんも世話焼いてくれて…………八年か……短かったな……けど、ガキの頃の時間って長いからさ……長い付き合いだったような気がする…………って、泣くなよ……」
ふっとヨウは困ったように笑う。
「っ……ごめん……」
淡々と話すヨウの言葉と横顔が、目に、心に沁みた。
「アフマドもいっちまったかー……」
溜息のように大きく息を吐くように言い、片手を腰に置きヨウは天を仰ぐ。そんなヨウを見てさらに切なくなった。
けれど佐知子は涙を拭い涙をこらえるため、村をぐっと睨むように見つめた。涙で視界が滲む。
(戦はつらいよ……悲惨だよ……もう誰にも死んで欲しくない……なくなる方法ないの……)
鼻をすすりながら、涙を拭いながら心の中で思う。
『だからあなたを投入したんじゃない』
「!」
その時、声がした。脳に直接響く声、この声は……
「神……様?」
佐知子はつぶやいて、背後を振り返った。
しかし、背後にも辺りにも二人以外の人の姿はない。
「……え?」
ヨウがきょとんとしている。
「あ! ご、ごめん! なんでもない!」
佐知子は慌てて両掌をヨウに見せて振る。
『そうよー! 神様よー! 久しぶりー!』
「っ!」
佐知子は脳に響く陽気な中性的な声に、吹き出しそうになる。