7 ラハーフ。
そのまま、大きくなったヨウに出会って、村に連れてきて貰った時を遡るように、馬で歩いてギドを目指す。
(あの時はただ、平凡な毎日が嫌でこれからはじまる楽しい異世界生活にわくわくしてたな……)
佐知子はそんなことを思いながら、今はもう見慣れた街並みを馬で歩く。
しかし街は喪に服していて、人気はほぼなくスークの店も閉まり、静まり返っていた。そして、門の外に出る。
黄土色の乾いた土と砂と、岩の大地も見慣れた。
見慣れたが、まだこの世界には慣れてはいない。まだまだ不慣れなこと、知らないことはたくさんある。
まだ飽きてもいない。元の世界に戻りたいとも思わない。
戦もあった。つらいことも悲しいこともあった。けれども、戻りたいとは不思議と思わない……。
馬はゆっくりと、陽が真上へと上る中、佐知子がここへ来た場所、二人が出会った場所へと向かって行く。
「着いたな……降りられるか?」
ギドに着くと、ヨウは額の汗を拭いながら馬から降り手を差し出す。その手を掴んで佐知子はよろよろと馬から降りた。
「慣れないね……」
ははは……と、苦笑いする。
「まだ、二回目だからな」
気にするな。と、ヨウは薄く笑った。
ギドに着くと、ヨウはギドの入口の布をめくり上げ、レンガの上へ乗せて、持ってきたお供え物の果物を狭いギドの中に入り供え、階段の前にしゃがみ、手を合わせた。
手を合わせるという作法は神社やお寺と同じなんだな……と、思いながら、佐知子も頭から被っていた布を外し馬の鞍に置くと、隣にしゃがみ込み一緒に手を合わせる。
そして入口の先に見える、一番奥の掛け軸のようなものを見て、ヨウに尋ねた。
「ねぇ、ヨウ。あの掛け軸みたいなのなんて書いてあるの? アズラク語? 何かちょっと違うみたいだけど……」
狭いギドの入口を、二人、顔を寄せて覗く。
「ん? カケジク? ……ああ、あれは昔のアズラク語だ。俺もよく知らないが、『偉大なるラハーフ』って意味らしい」
「……ラハーフって?」
「……この世界の創造神だ。お前を遣わした神だろ」
ヨウは少し驚いた表情をしていた。
「え、あ……神様、名前、ラハーフっていうんだ……」
佐知子は少し焦る。
「……まぁ……国が変われば神の名前も変わるからな……」
そう言うとヨウは立ち上がる。
「ああ……まぁ、確かに……」
私の世界でもそうだったような……と、思いながら佐知子も立ち上がった。
そのまま二人は村がよく見える崖へと向かう。
太陽は真上へと上り、今日も雲ひとつない青空でそこからは今日も村がいつもと何も変わらずに見える。
二人はそんな風景を並んで眺めた。