6 ギドへと。
泣き腫らした目でヨウと並んで帰り道を歩く。ヨウは泣かなかった。でも、何も話さなかった。
使用人小屋の前に着くと、
「……サチ」
「ん?」
名前を呼ばれ、佐知子は泣き腫らした顔を上げる。
「……これから……ちょっと暑いが……ギドに行かないか……」
「ギドって……私がこっちに来たあの場所?」
「ああ……」
ヨウは暗い面持ちだった。
「……うん、いいよ」
笑顔で佐知子は了承する。
「そうか……じゃあ……門の前で待っててくれ。支度して、馬を連れて行くから……」
「うん」
じゃあ、あとで……と、ヨウは去って行った。
佐知子はヨウが角を曲がり見えなくなるのを見送ると、ふぅ。と、息をついて、そのまま水場へと向かった。
泣き腫らし、火照った目元を冷たい水で冷やす。気持ちよかった。
「…………」
水が気持ちいいのも、泣けるのも、生きているからだと、佐知子はなんとなく思った。
(あ、タオル……)
まぁ、いいか……と、手を振って大雑把に払い、佐知子は空を見上げた。
空は今日も青く、突き抜けるように高い。この空はいつも変わらずに青い。そんな空を見ながら思う。
(私がこの世界で死んだらどうなるんだろう……そのまま死んじゃうのかな……それとも元の世界に戻るのかな……そもそも死んだらどうなるんだろう……)
少し哲学的なことを人の死は考えさせる……佐知子は考えても答えがでないことはわかっているので、考えるのをやめた。
ギドに行くなら馬だが……黒いカンラでいいのだろうか……乗れるかな……まぁ、大丈夫かな……などと思いながら門へと向かい、佐知子は結んでいた髪を解く。髪が風になびいた。
セミロングの髪も少し伸びた。肌も大分、焼けた。ここに来てどれくらい経つっけ……と、佐知子は思いながら日数を頭の中で数えるが、もうあやふやだ。ちゃんと日記でもつけよう。と、思った。
そうして門の前につくと、もうヨウは来ていた。
「あ、ごめん! 待たせちゃった!」
佐知子が慌てて駆け寄ると、
「いや……平気だ……」
と、ヨウは軽くほほえむ。
ヨウはいつだって優しい。
ヨウも黒いカンラのままだった。
「……馬に乗るのは……二度目か?」
ヨウは佐知子を見る。
「うん」
「暑いからこれを被っておけ……」
頭からふわりと被せられたのは、ここに来た時に被せられた、あのひんやりとした足まで覆える布だった。佐知子は、ふふっと笑ってしまう。
「……どうした?」
「いや、何か……この世界に来た時のこと、思い出して」
佐知子は苦笑してヨウを見上げた。
「……そうだな」
ヨウも少しほほえんだ。そして、カンラを少したくし上げ、鐙に足をかけ、馬に颯爽と飛び乗る。
「引っ張り上げるから、手を貸せ」
(このセリフも……言われた気がする……)
佐知子はそう思いながら、ヨウの手を取った。