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神様の外交官  作者: 山下小枝子
第一部 第七章
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6 ギドへと。

 泣き腫らした目でヨウと並んで帰り道を歩く。ヨウは泣かなかった。でも、何も話さなかった。

 使用人小屋の前に着くと、


「……サチ」

「ん?」


 名前を呼ばれ、佐知子は泣き腫らした顔を上げる。


「……これから……ちょっと暑いが……ギドに行かないか……」

「ギドって……私がこっちに来たあの場所?」

「ああ……」


 ヨウは暗い面持ちだった。


「……うん、いいよ」


 笑顔で佐知子は了承する。


「そうか……じゃあ……門の前で待っててくれ。支度して、馬を連れて行くから……」

「うん」


 じゃあ、あとで……と、ヨウは去って行った。


 佐知子はヨウが角を曲がり見えなくなるのを見送ると、ふぅ。と、息をついて、そのまま水場へと向かった。


 泣き腫らし、火照った目元を冷たい水で冷やす。気持ちよかった。


「…………」


 水が気持ちいいのも、泣けるのも、生きているからだと、佐知子はなんとなく思った。


(あ、タオル……)


 まぁ、いいか……と、手を振って大雑把に払い、佐知子は空を見上げた。


 空は今日も青く、突き抜けるように高い。この空はいつも変わらずに青い。そんな空を見ながら思う。


(私がこの世界で死んだらどうなるんだろう……そのまま死んじゃうのかな……それとも元の世界に戻るのかな……そもそも死んだらどうなるんだろう……)


 少し哲学的なことを人の死は考えさせる……佐知子は考えても答えがでないことはわかっているので、考えるのをやめた。



 ギドに行くなら馬だが……黒いカンラでいいのだろうか……乗れるかな……まぁ、大丈夫かな……などと思いながら門へと向かい、佐知子は結んでいた髪を解く。髪が風になびいた。


 セミロングの髪も少し伸びた。肌も大分、焼けた。ここに来てどれくらい経つっけ……と、佐知子は思いながら日数を頭の中で数えるが、もうあやふやだ。ちゃんと日記でもつけよう。と、思った。


 そうして門の前につくと、もうヨウは来ていた。


「あ、ごめん! 待たせちゃった!」


 佐知子が慌てて駆け寄ると、


「いや……平気だ……」


 と、ヨウは軽くほほえむ。

 ヨウはいつだって優しい。


 ヨウも黒いカンラのままだった。


「……馬に乗るのは……二度目か?」


 ヨウは佐知子を見る。


「うん」

「暑いからこれを被っておけ……」


 頭からふわりと被せられたのは、ここに来た時に被せられた、あのひんやりとした足まで覆える布だった。佐知子は、ふふっと笑ってしまう。


「……どうした?」

「いや、何か……この世界に来た時のこと、思い出して」


 佐知子は苦笑してヨウを見上げた。


「……そうだな」


 ヨウも少しほほえんだ。そして、カンラを少したくし上げ、鐙に足をかけ、馬に颯爽と飛び乗る。


「引っ張り上げるから、手を貸せ」


(このセリフも……言われた気がする……)


 佐知子はそう思いながら、ヨウの手を取った。

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