4 埋葬の鐘。
遠くから……地面にしゃがみこみ、布に包まれた人の様な……おそらく人……アフマドなのだろう……に、顔をよせ涙を流すアイシャの姿が見えた。
佐知子の鼓動はより一層、早くなる。
「ここだ……」
ヨウは小さくそうつぶやく。
墓場のごく普通の一画。そこが、アフマドの埋葬場所だった。
「アフマド……アフマド……」
黒いカンラを着たアイシャが、佐知子とヨウの位置からでは見えない、顔だけまだ布から出ているアフマドをなでながら、うわ言のようにつぶやいていた。
アイシャは一晩中泣いていたのだろう。アフマドに寄り添っていたのだろう。瞼は赤く腫れ、目の下にはくまが出来、少しやつれていた。
(アイシャさん……)
そんなアイシャを見て、佐知子は涙が溢れて来た。いよいよもって、アフマドの死を実感してきた。
アイシャの周りには数名の女性が寄り添い、肩をさすったりし慰めている。その周りにも何十人も人が集まっていた。アフマドの人望がうかがえる。
「ヨウ、来たのか」
「ああ……」
その場に立っていると、ヨウが佐知子の知らない男性に話しかけられた。そして、ヨウの元には徐々に人が集まってくる。
なんでこんなことに……しかたない、戦は誰がいつどうなるか……など聞こえてきた。
佐知子は少し離れた所にそっと移動して、その様子を見ていた。
ヨウは少し悲しそうな表情をしながらも、あまり表情は変えずに、皆の言葉に相槌を打ったり、短い言葉を返したり、泣いてる者を慰めたりしていた。それはまるで、副長官の仕事をしているようだった。そんなヨウが痛々しい。
カラン! カラン! カラン! と、鐘の音がどこからか聞こえた。
「アフマドぉー! 行かないでおくれぇー!」
それと同時にアイシャが泣き叫ぶ。
佐知子は驚くが、先程ヨウに教えてもらったことを思い出し、いよいよ埋葬なのだと息を飲んだ。