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第006話 ブラックマウンテン

 安達に新しいお友達を紹介した翌日の昼休み。

 ようやく俺のモブ生活が戻ってきたと内心小躍りしていた。そのことを祝しつつ、教室でゆっくりとお弁当を味わう予定だった。

 それなのに、今俺の目の前にいる二人の女子は一体何者なのだろう。

「えーと、どちら様?」

 その二人は俺の方を向いていたので、とりあえず誰なのか確認してみる。

 何か昨日校舎裏で会った二人にそっくりだけどきっと人違いだよね。だってあの二人は俺のいない所で、今頃似た者同士で仲良く互いのお弁当の中身を箸でつつき合っているだろうしね。

「安達。今までの今日で忘れちゃったの?」

「加賀見。昨日はどーも」

 一縷の望みを賭けて人違いという線を期待したが、その期待は脆くも打ち崩されました。何だよお前ら、この教室では隅にある黒板消しクリーナーよりも存在感のないモブに何の用なんだよ。

「友達を作ってくれたお礼を言いたいのでご飯でも一緒にどうかと思って」

 そうか。でも加賀見とやら。お前の声からはお礼というよりお礼参りに近い気配を感じるんだよ。

「俺は一人でご飯を楽しむタイプなんだ」

 そう言ってやんわり断る俺。でも二人は

「そう? 気が合うね。なら一緒に食べよ」

 そう言って加賀見は教室の隅にある余った椅子と机を、安達はわざわざ自分の椅子と机を持ってきて俺の机とガッチャンコ。あらやだ、俺の都合は無視ですか。

 さっさと椅子に腰を下ろして、机の上に弁当箱の包みを解いた安達と加賀見は

「「頂きます」」

 とご丁寧に手と手を合わせて弁当を食べだした。

 これはもう逃れるの無理だな、と悟った俺はしめやかに

「頂きます」

 とだけ呟き冷めた唐揚げを口にした。


「黒山って名前だったっけ?」

「いいえ」

 と言った瞬間に何かが俺の足の甲に乗っかる。何だろうねコレ。乗っかってる感触や重さからして、上履きを履いた人の足っぽいかな。人の足だとしたら席の位置関係から察するに加賀見という少女の足である公算が最も大きいんだけど、何だか怖くて目視で確かめる気にならないよ。

「ならあなたの名前は何?」

 加賀見さんが首を傾げてニッコリ笑う。ネットでよく見る笑顔のアイコン並に綺麗に整えられた笑い方だ。これが営業スマイルって奴か。そう言えば某ハンバーガーショップではスマイルを注文すると0円で提供してくれると巷の噂で聞いたが、実際に注文した猛者はどれだけいるのだろうか。少なくとも俺はお目に掛かったことがございません。モブな俺が自らチャレンジするなどもっての他。

「ブラックマウンテンです」

 とりあえずごまかそうとして咄嗟に嘘を答えたが、直後に激しく後悔した。何だこの名前。モブらしくないとか日本人の名前じゃないとかそれ以前の問題。俺の思考回路よ、何でこんな偽名を出力したんだ。

 このとき、弁当を美味しく頂いていた安達が急に吹き出し、口に手を当てて咳きたてる。食べ物が喉に詰まったんだね。可哀想に。でも最初吹き出したのは一体どういう理由なんだろね。

「長いから日本語に直して黒山って呼ぶね」

「そりゃどーも」

 加賀見はずっと営業スマイルを保っている。いいから弁当食えよお前。昼休み終わっちまうぞ。

「で、安達さんから聞いたけどアンタも普段ボッチで過ごしてるんだってね」

「俺は好きでそうしてるからなぁ」

 加賀見が次に発する言葉が何となく想像できてしまい、先手を打つ。

 おいやめろ、俺は誰からも目立たず静かに生きたいんだ。

 誰も構ってくれなくとも寧ろ俺にとっては誰にも気を遣わなくていい、大いに結構な環境なんだよ。

 そう俺の心が叫んでいるのを加賀見は察しているかのように笑い、


「だからこれからは三人で一緒にいるのはどうかなって」


 そんな提案をした。


「うん、いいよ」


 それに安達も乗っかった。

「おお、そうか。なら安達と加賀見の二人でやってくれ」

「黒山君もいいってさ」

「そう、なら決まりね」

「人の話聞けよ」

 どうやら俺は安達から解放されないらしい。それどころか余計なオマケまでついてくる始末。

 弁当がまだ半分以上残っていたが箸がそれ以上進まなかった。残りは帰りの道中で食べるか……。


 どうしてこうなった。いや、こんなもので俺のモブ生活が終わると思うな。

 誰がどんな邪魔しようとも必ず目立たず、注目されず、騒がれない静かなモブ生活を送ってやるぜ!


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