友達(2)
石月さんのロングヘアーの黒髪は、毛先が少し内向きにカールしている。
目が大きく、あごが小さい小動物顔だ。長いまつ毛はクリッと外巻きで、可憐である。
石月さんの細い腕には、ピンク色のお弁当箱が抱えられていた。
「……石月さん、ごめんなさい。まさかこんな近くにいるとは気付かず……」
石月さんが普段学食を使っているイメージがなかった。
てっきり昼休みはいつも教室にいるものだと思っていた。
「でも、安心して。僕は決して石月さんの悪口を言ってたわけじゃないんで……」
「はて?」
石月さんは、僕の弁解に対し、首を傾げた。
実際はどうか知らないが、石月さんは、良いところ育ちのお嬢様、といった雰囲気である。陰で悪口を言われている、という発想がそもそもなかったのかもしれない。
「小百合ちゃん、良かったら俺らと一緒に食べない?」
さっきまで舞泉さんにガッついていたのに、貴矢の切り替えの速さには驚かされる。
というか、貴矢は昨日石月さんに告白して、やんわりとフラれたのではなかったのか?
それなのに、ランチを誘うだなんて、一体どういう神経――
「はい! 喜んで!」
……え?
ええ!?
石月さん、今なんて――
「やったあ!」
感情を隠すということを知らない貴矢が快哉を上げる。
その様子を見て、石月さんは微笑む。
「……い、石月さん、良いの? 僕たちと一緒で?」
「はい!」
「どうして?」
「私、昨日から野々原君と友達になったんです。志茂部君も野々原君の友達ですから、友達の友達も友達です」
僕は唖然とする。
まさか石月さんが貴矢に告げた「友達から始めましょう」が、文字どおりの意味だっただなんて!
しかも、単純なロジックで、僕までも石月さんの「友達」にされてしまっている。
石月さんって、もしかして、ものすごい天然……?
「そういえば、私の名前と、それから、『あずさ』って名前も聞こえたんですが、クラスにそんな名前の子はいましたっけ?」
「まあまあ、小百合ちゃん、空耳だよ。とにかく座りなよ」
貴矢が、自分の隣の席――僕から見て右斜め前の椅子を引き、石月さんをエスコートする。
石月さんは、「ありがとうございます」と、まずはお弁当箱をテーブルに置き、貴矢に案内された席に腰掛ける。
「私、学食に来るの初めてなんですけど、広くて良い場所ですね」
「でしょ! 俺と遼は毎日使ってるんだ。良かったら小百合ちゃんも今後使ってよ」
「良いですね」
――なんという展開なのだ。
学食に来るのが初めてということは、石月さんは、貴矢と僕を追って来たということだろう。
今日は朝から色々と刺激が強過ぎる。
見ちゃいけないとは思いつつも、ブラウスからはち切れんばかりの石月さんの豊満な胸に目が行ってしまう。
ちなみに、石月さんは、舞泉さんとは違い、ブレザーは羽織っていない。
暦は6月で、例年よりも少し暑い初夏であるから、ブレザーを脱がない舞泉さんの方が少数派なのだが。
石月さんと、友達かあ……少しもしっくりこない。
「小百合ちゃん、いつもお弁当なの?」
「はい。毎朝母が作ってくれるんです。私と姉の分を」
「お姉さんがいるの?」
「はい。この高校の3年生です」
「ええ!? そうなの? 名前は?」
目の前の2人の会話を繰り広げているものの、僕は上の空である。
高校生活――青春というものは、僕が想像していたよりもずっと濃密で、摩訶不思議なもののようだ。
Netflixで「うる星やつら」を一気見した影響か、ここまではただのラブコメです。
ちなみに、「うる星やつら」の推しは三宅しのぶちゃんです。
アニメイトで買ったしのぶちゃんのボールペンをスーツの胸ポケットに挿して仕事をしています。幸いなところ、今のところクライアントには誰にも気づかれていません。
巫女フェチを公表してるに、サクラさん推しでなくてごめんなさい。
次話から、徐々にですが、ミステリーに入っていきます。