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悩み(3)

 石月さんのその質問は、「私のこと好きですか?」以上に僕を困らせるものだった。


 僕は舞泉さんに一目惚れしているわけだし、僕の中で、異性として最も意識している女性がいるとすれば、それは舞泉さんだ。


 しかし、僕はずっと悩んでいる。


 相手がアイドルや配信者だったら、「好き」は一方通行で良いのである。


 好きになるのに許可は要らないし、そもそも、好きであることを相手に伝える必要すらない。


 しかし、相手が生身の人間だと、事情が異なる。


 「好き」が相手にとって迷惑になってしまうかもしれない。日常的に顔を合わせている相手であれば尚更である。

 水がないところに、魚が飛び込んでいくわけにもいかないのである。



 舞泉さんは、僕のことを嫌ってるわけではないと思う。


 とはいえ、僕に好きになって欲しいとも思ってないだろう。


 舞泉さんにとって、僕は単なる下僕しもべなのだから。


 この状況で、僕は舞泉さんのことを好きでいて良いのだろうか。ここでいう「好き」とは、無論、恋愛的な意味である。要するに、僕の恋は、「イケナイ恋」なのではないか。



「志茂部君、舞泉さんのことが好きなんですよね? もしそうでなければ、私のことを好きになってもらえませんか?」


 石月さんはこんなことまで言っている。


 舞泉さんを諦めたら、石月さんと一緒になれるということだろうか。


 だとすれば、僕はどちらを選ぶのが正解だろうか――


 石月さんに申し分はない。それどころか、平凡な僕にとってあまりにももったいない、清純派美少女だ。



 対して、舞泉さんも負けず劣らずの美少女である。


 しかし、このまま舞泉さんのことを追いかけ続けていても、舞泉さんが僕のものになることはきっと――



「……私は分かってます。志茂部君は、美都さんのことが好きだって」


 何も答えられずに僕が黙っていたので、石月さんは、僕の心を勝手に解釈した。



 それに、と石月さんはうっとりとした顔で言う。



「志茂部君と美都さんはお似合いだと思います」


「そ……それは……」


 違う――のではないだろうか。


 僕が勝手に一目惚れをして、舞泉さんがどういう人かも分かっていないのに一方的に話し掛けて、それで2人の関係は始まったのだ。


 今だって、僕は舞泉さんのことをほとんど理解できていない。舞泉さんも、悪魔退治に協力してくれる下僕ということを超えては、僕に対して関心はないと思う。


 一緒にいる時間は他の誰よりも長いかもしれないが、2人の関係は所詮その程度なのである。


 「お似合い」と言われるのは嬉しいが、それは違う――と思う。



「なんだか私、自分で言いながら悲しくなってきました」


「……どうして?」


「野々原君と梓沙さんはお似合いで、志茂部君と美都さんもお似合いで、私にはどこにも居場所はないんですね」


「そんなわけないよ!」


 貴矢と梓沙が「お似合い」というのも、僕と舞泉さんが「お似合い」というのもともに疑わしい。


 ただ、それ以前に――



「石月さん、勘違いをしてるよ! 僕も貴矢も舞泉さんも、みんな石月さんの友達じゃないか!」


 なぜだか石月さんは、貴矢か僕と、交際を前提とした関係でなければならない、と勘違いしているのである。


 それゆえに、石月さんは、僕に、石月さんに好意があるかどうかを確認していたのだ。


 言うまでもなく、貴矢か僕と結ばれなくたって、石月さんの居場所がなくなるわけではない。


 石月さんは、僕らの友達なのだから。



「でも、私、野々原君と『結婚を前提とした友達付き合い』をしているんです。野々原君が私との結婚を考えてくれなくなったら、前提がなくなって、私は野々原君の友達ではなくなってしまいますよね?」



……は?



「しかも、私は、野々原君の友達になれたから、野々原君の友達である志茂部君と友達になれたんです。そして、志茂部君と友達になれたから、志茂部君の友達である美都さんと友達になれたんです」



……この天然娘は一体何を言っているんだ?



「ですから、野々原君が、私を将来の結婚相手候補から外してしまえば、私は、野々原君とも、志茂部君とも、美都さんとも友達ではなくなってしまうのです!」


 なんと精緻で、それでいて破茶滅茶な理論なのだろうか。

 友達関係において、そんな「ドミノ倒し」のようなことは起きえない。


 石月さんも、本気でそんな理論を信じているはずがないーーと思ったのだが、本気らしい。


 その証拠に、石月さんは、机に顔を突っ伏して、うわーんと子どものように声を上げて泣き始めた。



「このままだと私、独りぼっちになってしまいます! うわーん!」


「石月さん、落ち着いて。そんなことありえないから!」


「せっかく私、みんなと友達になれて嬉しかったのに!」


「落ち着いてって! 僕らは一生友達だから!」


「……一生ですか?」


 顔を上げた石月さんが、潤目で僕を見つめる。

 「一生」というのはさすがに言い過ぎたかもしれないが、この場を収めるためには仕方ない。



「一生だよ。約束する」


「本当ですか?」


「ああ」


「野々原君と梓沙さんが結婚してもですか?」


「……ああ」


 そんなことあり得ない想定だが、万が一実現しても、石月さんと僕らとの友情関係には影響しないだろう。



「志茂部君と舞泉さんが結婚してもですか?」


「……もちろん」


 それはもっとあり得ない想定である。万が一実現……もしないだろう。



「とにかく、石月さん、友達は何かの目的を前提にするものじゃないし、1度友達になったら、そう簡単に友達関係は解消されないんだ! だから、安心して!」


「私、志茂部君のこと信じますね!」


「うん。信じて!」


 僕は胸を張りながらも、内心では首を傾げる。



……あれ? 僕、友達について偉そうに語れるほど、友達たくさんいたっけ?


 すみません。2度目の改題を行いました。

 理由は、筆者がしっくり来なかったからです。


 なろうで見つけてもらえるかどうかはタイトルによるというのも分かっていますが、それ以前に、書いているうちに、元のタイトルが作品に合わなくなってきたと感じたのが本音です。


 そして、新しいタイトルをじっくり考えた結果、とてもなろうっぽいものになりました苦笑

 最近、プライベートでラブコメしか摂取していない影響か、書いているうちに当初の想定よりもラブコメ寄りになってしまい、それに合わせたという感じです。


 ちなみに、新しいタイトルは、「縁語」とまで言うと大げさかもしれませんが、


「教祖」「神秘」「幽霊」



「イケナイ」「落とし前」「シモベ」


の、2セットの意味の繋がりを意識しました。



 ラブコメに若干流れ過ぎた本作ですが、作品全体の流れとしては、起承転結の「転」も半ばに入っているので、ここからぼちぼち謎を解いていかなければならないでしょう。


 果たして舞泉さんとシモベ君には、殺人事件の謎は解けるのでしょうか(というか、筆者の頭はちゃんと整理されているのでしょうか)。



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― 新着の感想 ―
[一言] そ、そういう理由だったのか!!(;゜Д゜) なるほど。考え方によってはそうとも取れますな(ォィ
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