緊急ミーティング(2)
祥子さんが心細かった理由――それは友達である水城先輩が殺されてしまったからであった。
僕は、祥子さんが着ている「正装」が、黒一色の喪服であることに気が付く。
祥子さんは、ドローンによる偵察により、誰よりも早く友達の死を知り、悲しみに暮れたのだ。
そして、このビデオ通話システムによる緊急ミーティングを催すことにした。
水城先輩の死を乗り越えるために。
やっぱり祥子さんは強い。そして、したたかだ。
舞泉さんが、おそるおそる口を開く。
「祥子、志茂部君、知り合いが亡くなってしまったとのことで、なんと言えば良いのか……その……」
「美都ちゃん、気を遣わなくて大丈夫だ。美都ちゃんは、昨夜起きた事件について早く知りたいのだろう?」
「ああ……そうだが……」
「私も今回の緊急ミーティングではそのことを話すつもりだ」
「たしかに我は事件に関心がある。しかし、決して祥子には無理して欲しくはない。シモベ君にもそうだ。だから、事件のことは、落ち着いた後にまた……」
舞泉さんは気を遣っているのだ。
舞泉さんらしくない、と言ったら失礼だろうか。
それとも、これも僕が今まで知らなかった舞泉さんの一面ということだろうか。
「美都ちゃん、本当に大丈夫だ。今、時雨の死の真相について明らかにしようとすることは、決して不謹慎なことではない」
祥子さんが、黒いシルクのハンカチで目を拭う。
「むしろそれは、時雨への餞なのだ。私たちは真実を知る必要がある。時雨を成仏させるためにも」
舞泉さんは、死者の霊魂の存在を認めていない。
ゆえに、「成仏」という考え方は、おそらく、舞泉さんの「教義」に反している。
しかし、舞泉さんは、
「ああ、そうだな。時雨のためにも、我々は、生者としてできる限りのことをしよう」
と、祥子さんに理解を示した。
その上で、舞泉さんは言う。
「時雨だけではない。おそらく今回の事件は、澪葉とも関係がある。祥子、そうだろう?」
水城先輩が殺された事件と、澪葉さんの自殺とが関連している――それはおそらく根拠のない断言だと思う。
しかし、僕も、なんとなくそんな気がしていた。根拠はないのだが、2つが関連していないはずがない、と思っていた。
そして、その予感は的中した。
「私も、時雨の事件と、澪葉の事件は関連していると思う。なぜなら、時雨が殺された場所は、円形校舎の真ん前だから」
円形校舎――すでに閉鎖され、誰も立ち入ることのできない校舎。
そして、自殺した澪葉さんの幽霊が出たとされている校舎――その前で、水城先輩は殺されたというのだ。
「やはり円形校舎には何かあるな……」
それが舞泉さんの漏らした感想である。
「舞泉さん、何かある、というのはどういう意味?」
僕の質問に舞泉さんは、
「おそらくあそこが悪魔の根城なのだ」
と答えた。
「悪魔」という単語を久々に聞いたが、そういえば、全ての始まりは、舞泉さんが言い出した「悪魔退治」なのである。
舞泉さんの言うところの「この学校に棲む凶悪な悪魔」を退治するために、その手掛かりを掴むことを目的として、僕らは、校庭に埋まっている死体の捜索を始めた。
そして、紆余曲折を経て、ついに学園内で殺人事件まで起こってしまったのである。
まさか水城先輩を殺害したのは、「悪魔」だということなのか。
「この学校に棲む凶悪な悪魔」が、水城先輩の尊い命を奪ったということなのか。
「悪魔の根城……なるほどな」
舞泉さんの独特な世界観にはじめて触れたはずなのに、祥子さんは、なぜか腑に落ちた様子だ。
「たしかに時雨を殺したのは悪魔かもしれないな」
「祥子さん、どうして……?」
「これも志茂部君にはショックかもしれないが」
そう前置きして、祥子さんは、とても恐ろしいことを言った。
「時雨は、腹を裂かれて殺されていたのだ。時雨の死体からは、内臓が抜き取られていた」
この話は、GW中に、トイザらスで子どもを遊ばせながら書いてたものですが、気が付くと子どもが行方を眩ませていて焦りました(無事見つかりました)。




