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孤独

 両親の話によると、僕が生まれる前の時代には、「連絡網」というものがあり、何か緊急のことが学校で起きた場合には、その「連絡網」を使い、クラス全員に伝言したという。


 しかし、個人情報の保護が叫ばれるようになり、クラス全員の電話番号が掲載された「連絡網」制度は廃止された。


 それでは現代において、どのようにクラス全体に遍く緊急事態を伝達するのかという話だが、それに意を割く必要は一切ない。


 なぜなら、今のご時世、学校のHPにさえ載せておけば、SNSでの拡散によって、自ずと情報が広まってしまうからだ。



 僕も、朝起きてすぐ、ベッドの中でスマホを確認し、今日が臨時休校であることを知った。ツイートには先翔高校のHPがリンクとして貼られており、そこに飛ぶと、たしかに赤字で「臨時休校」とある。


 中学生の頃は本気で学校に行きたくないと思っていた時期もあったが、今は決してそうではない。



「へえ」


 僕は、何とも言えない心境で、さらに情報収集を続ける。


 高校のHPには、臨時休校の理由は詳しく書かれていない。違うソースに当たる必要がある。


 Twitterを眺めていると、すぐに知りたかった情報が手に入った。



「千翔高校に救急車とパトカーが来てるんだけど。こんな夜遅くに?」


 高校のすぐ近くに住んでいる同級生のツイートである。

 同様のツイートは、他にもいくつも見つかった。


 昨日の夜遅く、何か事件か、事故があったということのようだ。


――果たして何があったのだろうか。


 臨時休校になるくらいだから、かなり大ごとに違いない。

 しかし、夜遅くというと、学校は閉鎖されていて、誰も入れないのではないか。

 無人の学校で、何かが起こるということはあるのだろうか。


 考えてみてもおそらく正解に辿り着けないだろうと諦め、僕はスマホの画面を落とす。



「ふぁああ……眠い」



 この時の僕は、まさか学園で起きていたのが殺人事件だとも、その被害者が水城先輩であるとも、想像だにしていなかった。




 2度寝から目覚めると、僕は、2階の自室から出て、階段を降りる。


 両親は共働きで、2人とも早朝に家を出ているから、家には僕だけということになる。

 この家で一番広い部屋であるリビングで、僕は壁沿いに置かれていた座椅子に腰掛ける。


 考えようによっては、この上なく自由である。授業もなければ、親の目もない。何をしても誰かに咎められることはない。


 しかし、その状況に、僕はむしろ窮屈さを感じていた。


 何をしても良いというか、何もすることがない。


 少し悩んだ末、僕は、部屋の隅のスタンドに置かれたアコースティックギターに手を掛ける。



 ポロロロン――



 試しにFコードを鳴らしてみると、弦はしっかり押さえられているが、調律が少しズレている。



「うーん……」

 

 チューニングのための機械も購入していたが、チューニングをする気力は今はなく、ギターをスタンドに戻す。



 考えてみると、朝から何も食べていないので、料理をしようと、今度はキッチンに移動する。


 料理をする、といっても、そんな能力もないし、自分一人で食べる物のために時間を割く気もしない。


 僕は、戸棚にストックしてあったインスタントラーメンを取り出す。そして、カップ2杯半分の水を行平鍋に入れ、沸騰させる。


 せめて卵くらい入れようかと、冷蔵庫を開けたものの、卵のストックはなかった。



「熱っ……」


 出来上がった塩ラーメンのどんぶりの上端の方を持ちながら、ダイニングのテーブルまで持って行く。

 3人家族用のテーブルなので、1人で使うにはあまりにも広い。


 平手を合わせ、


「いただきます」


と、誰に聞かせるわけでもないが、言ってみる。



 麺を箸で掴み、フーフーと息を吹きかける。

 少し煮過ぎたようで、麺は柔らかくなってしまっている。


 ふにゃふにゃの縮れ麺を啜りながら、僕は、学校の友達のことを思い出す。



「今頃、貴矢は……」



 今頃、貴矢は何をしているだろうか――おそらくスマホゲームだろうか。最近、また新しい美少女育成ゲームにハマってるとか言っていた。



 今頃、石月さんは何をしているだろうか――きっと賑やかに過ごしているはずだ。臨時休校ということは、祥子さんも休みで、一緒に家にいるはずだから。



 今頃、舞泉さんは何をしているだろうか――


 少しも想像がつかない。SNSはやっていなそうだから、もしかすると、臨時休校にも気付かずに学校に行っているかもしれない。


 だとすると、僕も学校に行けば良かった――



 もしも舞泉さんが臨時休校に気付けたとすれば、何をしているのだろうか。


 僕みたいに、一人きりで家で過ごしているだろうか。家庭環境については語ってくれなかったが、「新興宗教の熱心な信者だった」という両親も家にいるのだろうか。もしかすると、兄弟姉妹もいるのかもしれない。



 結局のところ、僕は舞泉さんのことを何も分かっていないのだと思い知る。



 舞泉さんの連絡先も知らないので、「今、何してるの?」と気軽に尋ねることもできない。



「はあ……」


 ため息で、どんぶりの湯気が霧散する。



 舞泉さんはSNSはやっていないだろうが、スマホは持ち歩いている。スマホを使って調べ物をしている様子を何度か見たことがある。



 もうそろそろ1学期も終わろうとしているのに、連絡先も交換していないなんて、僕と舞泉さんとの関係は、恋人未満どころか、友達未満なのではないか。



 舞泉さんにとって僕は所詮、下僕しもべに過ぎないのだろうか。



 ピコン――



 ズンズンと沈んでいく僕のネガティヴ思考に終止符を打ったのは、LINEの通知だった。



 石月さんからのLINEだ。


 通知をタップする。



「志茂部君、今からビデオ通話できますか? 野々原君も美都さんも参加中します!」



 ビデオ通話?


 裏で祥子さんが糸を引いていることは明白だったが、とてもありがたい提案である。


 図らずしも、舞泉さんや、他のみんなの動向も分かったのも、とてもありがたかった。



「了解!」


 僕が返信をするや否や、石月さんからグループの招待が届く。


 「美都さんも参加します」ということは、このLINEグループには舞泉さんもいるということだろう。


 それはすなわち、このLINEグループに参加すれば、舞泉さんの連絡先も分かるということだ。



 まさに渡りに船である。



 僕は迷わずに招待を受諾した。

 

 虚無回でした。


 経験上、連休明けは多忙を極めるのですが、毎日更新は途絶えないように頑張ります!


 Twitterで宣伝をしてみたら、スマホからのアクセスが増えてありがたいです。

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