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お宝

「ここだ! ここにあるぞ!」


 例によって、オーブをじっと見つめていた舞泉さんが、突然叫んだ。


 少なくとも僕の目には、棒に吊るされた2つのオーブについて、色が変わったり、光ったりという様子は確認できなかったが、舞泉さんには何かが見えたということだろう。



「ここにお宝が埋まってるんですね!」


 「友達の輪」に加わった石月さんに、何をしているのかを早速訊かれたので、僕は「宝探し」と偽っていた。

 純粋無垢な石月さんに「死体探し」をしてるなどと素直に白状できるはずがない。



 舞泉さんが、「ここ」と指差した場所は、テニスコート脇の植え込み近くである。


 テニスコートの内部ではない。

 テニスコートはフェンスに囲まれていて、雨模様の今日は入り口の扉が施錠されており、立ち入ることができないのだ。


 我々が捜索をしていたのは、テニスコートの外部、フェンス沿いの、ツユクサなどの雑草が生い茂っている場所だった。



「で、美都さん、どうやってお宝を掘るんですか?」


「そこまでは考えてなかった。どうしようか……」


 舞泉さんは、石月さんが「お宝」と言うのを訂正しようとはしない。


 空気を読んでくれているのだろうか。それとも、舞泉さんにとって、死体もお宝も変わりがないということだろうか。



「美都さん、私に良いアイデアがあります!」


「なんだ?」


「陸上部も普段使っている体育倉庫に、シャベルがあるんです! 今から持ってきます!」


「おお。よろしく頼む」


「行ってきます!」


 石月さんにそんな雑用を頼むべきではないので、本来ならば僕が体育倉庫に行くべきだろう。


 しかし、僕には、大きめのビニール傘で舞泉さんを雨から守るという役目がある。



 それに、石月さんは止める間もなくグラウンドの方へと駆けて行ってしまったのである。


 


「志茂部君、美都さん、持ってきましたよ!」


 10分ほどして石月さんが戻ってきた。


 石月さんの手には、シャベルが握られている。工事現場で用いられるような、柄の長い、大きなシャベルである。


 花壇の土をいじる用の、片手で扱える小さなシャベルを想像していた僕は驚く。シャベルと小柄な石月さんとのサイズのアンバランスさにも驚く。片手で傘をさしながら、よくもこんなに重たい物を持ってきてくれたものだ。



「おお! それだ! それ! でかしだぞ!」


 大型のシャベルは、舞泉さんのイメージには適っていたようだ。


 舞泉さんは、石月さんからシャベルを受け取ると、反対の手で石月さんとハイタッチなどしている。


 変わった者同士、波長が合うということだろうか。



「それじゃあ、シモベ君、掘るぞ!」


「はい」


 僕は仕方なく了承したが、内心、気は進まなかった。


 果たして、高校に無断で校庭の土を掘り返して良いのだろうか。


 しかも、こんな仰々しいシャベルなどを使って大丈夫だろうか。


 先生にバレて、怒られることはないだろうか。



 舞泉さんは、石月さんから受け取ったシャベルを、僕に差し出す。


 僕に「掘れ」と指示しているのだ。


 おそらく校則違反であろう行為に、「共犯」にとどまらず、「実行犯」として関与しなければならないというのは後ろめたい。


 とはいえ、力仕事は男がやるべきだろう。



 僕は、シャベルを受け取り、代わりに、舞泉さんにビニール傘を渡した。



「シモベ君、この、カタバミの黄色い花のあたりだ」


「はい」



 舞泉さんが指示した場所に、シャベルの先端を立てる。


 上手く掘ることができるのだろうかと不安だったが、地面が雨で湿っていることもあり、驚くほどスムーズにシャベルがささった。


 さらに少し力を加えると、金属部分はさらに奥に進み、雑草ごと地面が盛り上がる。



「おお、シモベ君、やるではないか」


「良い感じですね!」


 作業は上手くいきそうだ。


 ただ、別の大きな不安が僕を襲う。



――本当に死体が埋まっていたらどうしよう。


 小心者の僕には、死体を見る心の準備さえできていなかった。



 とはいえ、今さら後には引けない。


 今や石月さんまでも巻き込んでしまっているのである。


 舞泉さんを止めるのであれば、もっと早く止めるべきだった。



 僕は後先考えずに、地面を掘り進めた。



 穴はどんどん深くなり、掘り返した土が小高い山となる。



 しかし、幸か不幸か、60cmほど掘っても、まだ何も見つからない。



「舞泉さん、まだ掘らなきゃダメ?」


「行けるところまで行ってくれ」

 

 行けるところまでとは一体どこまでだろうか。


 このあたりの土地は台地の凹み部分に当たるため、湧水が出ると聞いたことがある。


 地下水脈まで行き当たってしまわないだろうか。



 カツン――



 シャベルの先端が、何か固いものに当たった。



「シモベ君、なんだ? 死体か?」


「え!? 死体……ですか?」


「……舞泉さん、変な冗談はやめてよ。石月さんが怖がっちゃうじゃないか」


 何とか場を取り繕いつつ、僕は、シャベルで、固いものの周りの土の状態を確認してみる。


 やはり固いものにぶつかる。おそらくこれは--



「大きな岩だと思う。岩があるからこれ以上掘り進められないよ」


「それは困ったな。その岩の下がどうなってるかを知りたいのだが」


 岩にぶつかったということは、ここには死体は埋まっていないということじゃないか、と僕は思ったが、舞泉さんはそうは考えないようだ。


 

「シモベ君、シャベルで岩を砕けないのか?」


「無理言わないでよ」


「修行が足りぬな」


 一体何の修行をすれば、シャベルで岩を砕けるようになるというのか。



「岩を砕けば良いんですね! 私にアイデアがあります!」


 石月さんが明るい声を上げる。



「体育倉庫に、ハンマーがあります! 今持ってきますね!」


「石月さん、待っ……」


 やはり制止する間もなく、石月さんはグラウンドに向かって駆けていく。

 そのフットワークの軽さには心から敬服する。



 石月さんの後ろ姿を見送った後、僕は舞泉さんに話しかける。



「本当にここに死体が埋まってるの?」


「そのはずだ」


「何者かが岩の下に死体を埋めたの?」


「違う。死体を埋めた後に岩で覆ったのだ」


 順序的にはそれで正しいのかもしれないが--



「一体何のために? 漬け物石じゃないんだから」


「ツケモノイシとはなんだ?」


「え?……いや、それは……」



「お前ら!!」


 突然、背後から怒声が響き、心臓が止まりかける。



「そこで何やってるんだ!?」



 振り返ると、そこに立っていたのは、この高校の男性教員であった。



――いや、ただの教員ではない。



 校長である。


 この学校の創立者の孫でもある布瀬川ふせがわ鈴人すずと校長。


 

 最悪なことに、僕らの悪事は、この学校の最高権力者に見つかってしまったのである。

 元々趣味で新興宗教本を読み漁っていたのですが、最近は仕事でも新興宗教関連の案件を扱っています。


 そういった経験が本作でも生きればとは思っています。


 ブックマークくださった方ありがとうございます。毎日更新頑張ります!

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[一言] ちょっとぉ(;'∀') 大ピンチやないですかあ(;'∀')
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