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第15話「勝利の裏側で」

約一ヶ月にも及んだ序章も、そろそろ〆に入ります。


実は更新していない日でも、前の回の加筆修正とかやってるんですよ。

昨日、第12話にかなり加筆したので、そこから最新話まで一気に読んでもらえると嬉しいです。

「勝った……のか?」


死霊王を斬り捨て、着地した俺は後ろを振り返る。

そこには持ち主を失い転がった大鎌が残っているだけだった。


『ああ、お前たちの勝利だ』


ドラゴンの声が頭の中に響く。

そっか……俺たち、この城の人たちを守れたんだ。


全身を覆っていた鎧が光の粒子になって消滅し、視界が広がる。

それと同時に、俺の左腕には赤い宝玉がはめ込まれたバングルが出現した。おそらく変身アイテム的なものだろうとは思ったものの、この時ばかりは些細な事に感じた。


変身して、本物の魔物と戦い、この手で倒した。

霊廟に満ちる冷たい空気と、残留する熱気。そして振り下ろした剣の重さが、この現実を俺に強く実感させる。


「やった……俺たち、勝ったんだ!!」


拳を高く掲げ、俺は勝利の喜びを噛みしめた。


「これが勇者の力……」

「私たち、本当に……」

「ああ……あのバケモノ、倒せたんだな!」

「はぁ~……死ぬかと思ったぁ……」


他の4人も、それぞれ戦いの余韻に浸っている。

俺と同様に鎧が消滅して、全員顔が見えていた。

服は傷んでいるが、全員無傷のようだ。


「みんなお疲れ。それと……ありがとう。みんなが一緒に戦ってくれなかったら、あいつには勝てなかった」


俺は皆を労いながら、感謝を伝えた。


「いえ……俺が踏み出せたのは、レッドさんのおかげです。レッドさんの勇気ある背中が、俺に力をくれました」

「私も、あなたの言葉に励まされたわ。個人的な感情で戦うのは、私だけじゃないんだって」


イエローとグリーンが微笑みを向ける。

事情は知らないが、2人はとても晴れやかな顔をしていた。


「お兄さん、善人かと思ってたけど、意外とエゴイストなんだね」

「自分でも驚いてるよ。でも不思議と悪い気はしないんだ。変かな?」


俺の言葉に、ホワイトは首を横に振る。


「むしろ納得。自分のエゴを臆面なく言えるその性格、私は好きだよ」


そう言ってホワイトはニッコリ笑った。


「ケッ、熱血バカのヒーローオタクがチヤホヤされやがって……」

「ブルー、何か言ったか?」

「なんも言ってねぇよ。羨ましくなんかねぇし!」


ブルーだけが、何故か不機嫌そうにそっぽを向いた。

何やら小声でボソボソと呟いていた気がするんだが……。


「ただ……安っぽい正義感だとか、博愛精神だとか、そーゆー理想論を掲げられるよりかは共感できた。……カッコいいとは思うぜ、クソッタレ……」

「ブルー……」


最後の方は聞き取れなかったが、褒めてくれているらしい。

少しひねくれているようだけど、悪いやつじゃなさそうだ。


「アンタたち~!」


大声と共に近づいてくる足音に、俺は振り返る。

そこには大きく手を振りながら、俺たちの方へと駆け寄ってくるリア王女の姿があった。


「王女様!」

「はぁ、はぁ……アンタたち、無事?」

「はい、怪我はないですけど……?」

「そう……」


駆け寄ってきた王女様は、力が抜けたように膝を着いた。


「大丈夫ですか?」


反射的に手を貸そうと、俺も膝を着く。

すると、王女様は俺の胸ぐらに掴みかかってきた。


「このバカ!! 一歩間違えたら死んでたかもしれないのよ!?」


怒りに満ちた目で睨まれ、思わず息を呑む。

王女様は、俺と他の4人を順番に見て。それから俺の胸ぐらから手を離した。


「……よく勝利してくれたわ。この国の誰よりも先に、褒めてあげる」

「……ありがとうございます」


彼女の瞳からは涙が溢れていた。


その姿だけで、俺たちをどれほど心配していたかが痛いほどに伝わった。


「それと……よく、生きて帰ってきたわ」

「はい。それがヒーローですから」

「……そうみたいね」


王女様は泣き笑いを浮かべると、俺の手を取り立ち上がる。


「さあ、上に戻るわよ。あなたたち、怪我はなくても瘴気を浴びてるでしょ? 大浴場で身を清めて、着替えてくるといいわ」


涙を拭った王女様の顔は、元の強気な表情に戻っていた。


□□□


「敗北した、と?」

「はい。私も目を疑いましたが、事実です」


魔王城、玉座の間にて。

報告を受けたヴァーエルⅡ世は静かに瞠目した。


「メディナ、あの死霊王(リッチーロード)に施した強化の内容は……」

「集合した怨念に指向性を与え、命令を忠実に実行させるための疑似人格の付与。装備として魔力的防御を貫通する大鎌と、魔法攻撃を減衰するフードを与えておりました」


ゴースト系の魔物には物理攻撃が通用せず、物理防御を透過する。

そのゴースト系の最上級に位置する死霊王に、魔法攻撃を防御する防具と、魔法防御を突破する武器を与える。


石像の硬度が大鎌を弾く硬度だったとしても、生物由来のあらゆる物体を腐食させる腐爛瘴気(マイアズマ)なら無傷ではいられないだろう。

それでも不可能と断定された場合は、勇者の抹殺を優先する。


それが魔王の計画だった。


「損害に換算した場合は?」

「死霊王を生み出すために使った666人分の怨念。大鎌の作成に使った神樹1本に、フードの作成で使われた神樹の葉。それと魔獣の骨413本といったところです」

「……そうか」


魔女メディナは深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。私としたことが、このような失態をお見せしてしまいまして……」

「構わん。怨念と骨程度、どうせ消耗品だ。実質、神樹一本分の損害と見てよい」

「寛大なお言葉に感謝致します」


メディナは頭を上げると、帽子を深くかぶり直す。


「して、敗因はなんだ?」

「敗因は……勇者の数、かと」

「確か、5人だったか。これまでの勇者召喚の中でも最大の人数だが、召喚されたばかりでここまでやるとはな」

「はい。それから……」


魔王の眼前に、氷でできた楕円形の鏡が現れる。

メディナの魔法のひとつ、『氷鏡』だ。


氷鏡には、死霊王と戦う赤の勇者……龍也の姿が映し出されていた。


「赤の勇者は、警戒に値する。そのように感じました」

「ほう?」

「戦闘経験が皆無でありながら、他の4人を団結させ、勝利に導いたのは赤の勇者です。この男の統率力は後々、我々にとって大きな驚異となりうるやもしれません」

「赤の勇者か……」


ヴァーエルⅡ世は腕を組みながら、顎に手を当てる。

その視線は、鏡に映る赤の勇者を興味深げに見つめていた。


「まあ、覚えておくとしよう。それで、次の計画は?」

「既に進めております。全て私にお任せを」

「ああ。期待しているぞ、メディナ」


そう言うと、ヴァーエルⅡ世はメディナへと微笑む。

メディナは恭しく一礼すると、玉座の前から立ち去るのだった。

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