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第12話「俺のやるべきことは……」

12話です。気づけばもう月末が目前ですね。

月内には変身させて序章を終わらせたい……(定期)

休日があと二日くらい欲しい。切実に。

それはボロ布のような黒いローブに身を包み、柱ほどの大きさの大鎌を握った、巨大な骸骨頭の霊だった。


「うそ……!?どうして死霊王(リッチーロード)がこんな所に!?」


王女様の驚く声が、霊廟にこだまする。


死霊王と呼ばれたそれは、俺達の存在を認めるなり、ゆっくりとこちらを振り向いた。

目測で10mはあろうかという巨体。その眼窩の奥に灯った赤い光が、不気味に揺らめく。


「あれ……なに……?」

「ほ、ほほほ本物の……モンスター……!?」

「幽霊……だよね……? うそ、見えてる……?」


冷たい死の気配を孕んだ視線に、背筋が凍てつくような感触を覚える。

王女様や他の4人も同じものを感じているようで、その場に縫い止められたように立ちすくんでいた。


「なんなんだよ、このデカいのは!?」

死霊王(リッチーロード)。墓場をさまよう死霊たちの集合体です。しかし有り得ない……この神聖なる霊廟に、死霊が現れるなど!」


死霊の王者を見上げるグレゴリー司祭は、驚愕をあらわにした表情で叫んだ。


「その声は……あ、姉上ぇぇぇ!!」


すると死霊王の足元から、なにやら情けない絶叫が聞こえてくる。


声のした方に目を向けると、銀髪の少年が何度も腰を抜かしそうになりながら、こちらへと走ってきた。

その後ろには、死霊王を見上げながら盾と槍を構える2人の兵士が、後退するように付き従う。


「ロア!? あんたなんでここに居るのよ!?」

「そ、それは……」


銀髪の少年は、何やら気まずそうに口ごもる。

見たところ王女様より2つほど歳が下に見えるけど、弟とかなんだろうか?


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」


すると、死霊王が手にした鎌を、多くの声が入り交じったような叫びと共に振り下ろす。

まずい、あの大きさだと直撃しなくても衝撃で吹き飛ばされる!


反射的に身構えたその時、白い影が勢いよく飛び出した。


「させるかよ!」


両脚をバネのようにして跳躍したヴァンが、全身から眩い光を放つ。

光は死霊王の目を眩ませたようで、死霊王はローブの袖で顔を覆って狼狽した。


「ロア王子、事の顛末を説明して頂けますかな?」

「うぇ、グレゴリー!? お前まで来てるのかよ……」


グレゴリー司祭の顔を見るなり、余計にバツの悪そうな顔をする少年。

王子ということは、やはり王女様の弟らしい。


「いいから説明しなさい。今のあんたには、その義務があるのよ」


王子はしばらく目を泳がせるも、眼前の死霊王を見上げた後に、やがてポツポツと語り始めた。


「勇者が揃って父上からの要請を突っぱねたって聞いて……だったら、僕が先に天聖獣からの祝福を受けて勇者になれば、父上もお喜びになるかと思い……」


あれ?俺も突っぱねた側に含まれてるような伝わり方してない?

思わず他の4人へ目をやると、各々程度の差はあれ気まずそうな顔をしている。

眼鏡の青年だけが素知らぬ顔をしている辺り、本当にいい性格してるなこいつ……。


「あんた……何馬鹿なこと考えてんのよ!?」

「まあまあリア様、落ち着きなされ。それでロア様、あの死霊王はどこから現れたのです?」

「それが、扉の錠を外して足を踏み入れた後、いきなり背後から現れて……」

「いきなり、ですと?」


グレゴリー司祭が顎に手を添える。

王女様は守衛らしき2人の兵士に目を向けた。


「あなたたちは何も見てないの?」

「いえ、私には何も……」

「私は見ました! 我々2人の間を素早くすり抜けていく、影のようなものを!」


守衛たちは、槍の先端から青いビームのようなものを放ちながら、死霊王を撹乱しているヴァンを援護している。

一方ヴァンはというと、死霊王の意識が俺たちに向かないよう、浮遊する死霊王の足元を縦横無尽に走り回っていた。


死霊王から攻撃の様子を感じた瞬間、身体を発光させて目を眩ませる事で動きを阻害する。

これを繰り返すことで、俺たちが情報を共有できる時間を稼いでいるんだ。


しかもヴァンは、予めどれくらいの時間を稼げるかなんて宣言はしなかった。

きっと、情報共有が済むまでは可能な限りもたせるつもりなんだろう。


まさに仕事人。これが王女の護衛としての立ち回り……。

ヴァン……お前、すごくかっけぇよ……。


「ふむ……。どうやら通路の暗がりに隠れ潜み、霊廟への扉が開く瞬間を狙っていたようじゃな……」

「たかが死霊(ゴースト)にそんな事が可能なのか!?」

「王といえど、その実態は怨念の集合体。常時ならそのように理性的な思考を持ち合わせる事など有り得ぬ。どうやら魔王軍には、中々腕のたつ死霊使い(ネクロマンサー)がおるようじゃな……」


司祭の言葉に、王子の表情が驚愕に染まる。

この世界の事象には門外漢な俺だけど、司祭の言ってることは何となく分かるぞ。

この死霊王(リッチーロード)の挙動は異常って事だな?


「奴の狙いは、おそらく天聖獣です! 奴は私たちには目もくれず、石像を狙っておりました!」

「鎌を振り下ろして壊そうとしておりましたが、あまりの硬さに弾かれたのです。弾かれた鎌が霊廟の天井に当たるほどに!」


ああ、さっきの揺れはそういうことだったのか。

って、狙いは石像だって!?


「王女様、あの石像がさっき話していた天聖獣なんですよね?」

「ええ、そうよ。まさかあいつ、石像を砕く気!?」

「それ、かなり不味いですよね!?」

「冗談じゃないわ!?」


霊廟の奥に並ぶ五つの石像に目をやる。

左から順に、蛇、ユニコーン、ドラゴン、鳥、牛の石像だ。

それぞれ腰を降ろしたり、翼をたたんだり、とぐろを巻いたりしたポーズで、その眉間には宝玉がはまっている。どう見ても石で出来た精巧な巨像にしか見えない。


しかし、どことなく生命を感じるのも確かだ。

今にも吐息が聞こえてきそうな気配すらある。


ふと、小さい頃に見たヒーロー番組の一つを思い出す。

そのヒーローは石像となって深い眠りについており、選ばれし者が触れることで目を覚ます設定だ。

しかし、眠っている間は無防備であり、ヒーローと共に眠りについていた仲間は悪の手先に破壊されてしまう。その後、破壊された仲間が復活することはなかった。


今の状況は、まさにその展開と同じじゃないか!?


「グレゴリー司祭、天聖獣はどうすれば目覚めるのですか!?」

「天聖獣の声に呼ばれし勇者が聖なる武器を引き抜く時、目を覚ますと伝わっております」

「聖なる武器……」


石像の下へ目を向けると、そこには石造りの四角い台座が鎮座している。

台座の上には、鈍い光沢を放つ五つの武器があった。


鳥の前には弓が。ユニコーンの前には槍が。蛇の前には錫杖が。牛の前には大盾が。

そしてドラゴンの前には、真っ直ぐな刀身をもつ剣がそれぞれ突き刺さっている。


「あれを引き抜けば……」

「ぐあああっ!」


耳をつんざく悲痛な叫びに、思わず振り向く。

声の主はヴァンだった。動きを見切られたのか、死霊王に吹っ飛ばされて床に身体を叩き付けられ転がっていた。


「ヴァン!」

「リア様、危険です!」

「ゴハッ……ぐぅぅ!?」


王女様とグレゴリー司祭が血相を変え、慌てて駆け寄っていく。

ヴァンは全身擦り傷だらけで、口からも血反吐を吐いていた。

王女様はヴァンを抱えようと膝をつく。


「来るんじゃねぇ! 俺の血でそのドレスを汚させんな!」

「ヴァン……」


ヴァンはヨロヨロと立ち上がると、4本の脚を踏ん張らせ、死霊王を睨みつけた。


「駄目! ヴァン、それ以上はアンタが死んじゃう!」

「だがお前とロアが逃げる時間くらいなら作れる! この場に残って良いのは、戦えるやつだけだ!」

「ッ……!!」


一撃受けただけでもボロボロにされる。戦い続ければ死ぬかもしれない。

それでも、自分よりも強大な敵を前に一歩も引かない。力を振り絞って立ち上がる。

王女の護衛、その役職を誇りとして背負う獣の背中に、俺は思わず見蕩れていた。


同時に、そんなヴァンを見て唇を噛み締めている王女様の姿が視界に入る。


その表情には、強い葛藤が見えた。

ヴァンの言うことは尤もだ。この国の王女と王子である彼女たちに死なれては、護衛の立場がない。

しかし、これ以上ヴァンを戦わせれば、彼は死んでしまうだろう。王女様はそれに気づいている。だから、ヴァンにも逃げて欲しいと思っているんだろう。


なら、俺のやるべきことは……。


□□□


「チョコ……マカ、ト……目障リナ……犬ッコロ、メガ……」


地の底から響くような低い声に、思わず頭上を見上げる。

声の主は顎骨をカラカラと鳴らしながら、私たちを見下ろしていた。


「ウソ……死霊王が、喋ってる……!?」

「そんな、絶対に有り得ん! 怨念の集合体である死霊王(リッチーロード)が、自らの意思で言葉を発するなど……」


背後からグレゴリーの驚く声が聞こえてくる。

聖職者であるグレゴリーですら驚いているのだから、少なくとも前例がないのだろう。


元来、既に死した存在である死霊に『王』は存在しえない。死霊王という名前も、あくまで死霊の集合体に便宜上つけられた名前だ。

そして、集合体である時点で単一の自我は存在しない。ただ寄り集まった怨念の赴くままに、墓場を彷徨い生者を襲う。それだけの習性であるはずだ。


そも、スケルトンならともかく、大鎌を武器にする死霊なんて聞いたことがない。

この死霊王は普通じゃない!


それに気がついたとき、全身の毛穴がぞわりと逆立った。


「天聖獣、ノ……石像……破壊スル……」


すると、死霊王は私たちの方にくるりと背を向け、再び石像の方へと向き直った。


「おい、まだ俺は倒れちゃいねぇぞ!」

「……」

「おい! 聞こえてんのゴハッ! ゲホッゲホッ……」

「ヴァン! あまり喋らないで!」


さっきまで戦っていたヴァンには、まるで興味が失せたように無反応だ。

あくまで最優先なのは、石像の破壊なんだろう。


「やはり、ここは私が……」

「グレゴリー、それは絶対に駄目!」

「しかし……」

「悪化したらどうすんのよ!」


グレゴリーが、悔しげに両の手を握りしめる。

その両手はあの日魔王を退けて以来、白い手袋で覆われていた。

魔王軍を退けた代償だ。今のグレゴリーは魔法が使えない。


認めたくはない。けど、認めざるを得ない。

今この場に、あの死霊王を倒しうる戦力は存在しない。


唯一の希望は、召喚された5人の勇者だ。

でも……私は彼らに頼りたくはなかった。


だって、それは……。


「姉上、今の内に逃げよう! どうせ石像は奴には壊せない。勇者に任せて僕らは離れよう!」

「ロア王子の仰る通りです! せめて霊廟の外までお下がりください!」


ロアと兵士たちが駆け寄ってくる。


その提案は当然のものだ。

私たちはこの国の未来を担う立場。自ら危険に飛び込んでいい立場じゃない。


悔しいけど、誰も死なせないためにはそれしかない。私は腰を上げると、兵士たちの方を振り返った。


「2人はヴァンを運んで」

「リア、俺はまだ……」

「私の護衛なら、易々と命投げんな馬鹿!」

「ッ……!」


ヴァンはそれ以上何も言わなかった。

大人しく兵士たちに身体を預け、霊廟の入り口へと向かっていく。


それを見届けた私は、勇者たちの方へと顔を向けた。


「それとあんたたちも。ここは一時撤退よ」

「あ、姉上!? そいつらは勇者なんだろ!? 逃げるわけないじゃん!」

「勇者じゃないわ」

「は?」


わけが分からない、という顔でロアは私の顔を見つめる。

でも、少なくとも私はそう判断していた。


「勇者じゃないわ。この人たちは、ただの人間よ」


異世界から召喚された人間はみな勇者である、と認識している人間は少なくない。

事実、多くの国民がそういう認識でいるし、他国の民も殆どがそうだろう。クソ親父なんかは特にその認識が強いはずだ。


でも、私は違う。


勇者とは勇ましき者。世界を脅かす厄災に立ち向かう、強き者たちのことだ。

異世界から来た人間だから勇者である、という言論は間違っていると思う。


過去の勇者の記録を読み漁る中で、私は彼らが必ずしも聖人君子や英雄然とした人間ばかりでなかったことを知った。

死霊王を前に怖じ気づき、言葉すら失って立ち尽くしているあの5人を実際にこの目で見て、それが間違いじゃなかったことを確信する。


勇者でない以上、彼らはただの国賓。お客様にすぎない。

危険な目には遭わせられない。


「戦えない人間が居残ってていい場じゃないわ。死霊王に殺されれば、ゾンビにされてもおかしくない。だから……」

「でも、天聖獣は……?」


気弱そうなのが困惑したように呟く。

呆れた。死霊王を前に怖じ気づいて何も言えなくなっていたのに、大事なことは忘れていないみたいだ。


「いいから今は……って、ちょっと!?」


その時、私は思わず叫んでいた。

1人足りなかった。タツヤだけがそこに居なかったのだ。


「タツヤはどこいったのよ!?」

「ん? あ!? あの真面目野郎、あんなところに!」

「はぁ!?」


軽薄メガネが指さした先は、ドラゴンの石像の足下。

そこには、台座から剣を引き抜こうとしているタツヤの姿があった。

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