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第11話「覚悟はよいですかな?」

第11話、更新。

ようやく序盤の7割、といったところです。

頭の中に響く声に従って、城の廊下をひたすら走る。

曲がる角、階段の場所、全てが脳内に浮かび上がる。

まるでナビがついているかのように、俺の身体は迷いなく進んでいく。


「な、なんなのよあいつ! 勝手に走っていくし!」

「待てよタツヤ! 一体どこに行くつもりなんだ!?」


後ろからはリア王女とヴァンの声も聞こえてくる。

そういや、『霊廟』について聞いてなかった事を思い出した。


「セントリア、霊廟って何なんだ?」

「今は“王女様”にしときなさいよ!この城の地下には、天聖獣が眠る霊廟があるの」


しまった、テラス出てるから敬語禁止は解除されてるのか。

無礼討ちされないよう、気をつけないと。


「テンセイジュウって?」

「聖獣たちの頂点にして、勇者に力を与える存在よ。勇者が召喚され、呼び起こしに来るその時までは、地下の霊廟で石像となって眠りについているの!」


なるほど。召喚された後に力を授けられるパターンだったか。

……謁見の間での失態が余計に恥ずかしくなってきたぞ!?


「その神聖なる霊廟で、何かあったってわけだ!」


時間差でダメージを受けている俺の傍に、ヴァンが追いついてくる。


「タツヤ、お前霊廟のことは知らないのに、道は分かるのか?」

「なんか、声が聞こえて……」

「天聖獣が導いてるのかも……急ぐわよ!」


そう言って王女様も俺に追いついてきた。

ヒール履いててよく走れるな……と思って足元を見ると、


「あ゛ぁ゛もう!やっぱりヒールが邪魔ッ!」


一旦立ち止まり、ヒールをへし折ってから走り始めた。

な、なんとワイルドな……。


「ところで王女様?」

「なに?」

「危険だって分かってるのに、どうしてついてきてるんです?」

「霊廟の扉は王家の人間じゃないと開けられない仕組みになってるの。私が行かなくてどうすんのよ!」


そういう事か。なら王女様が来てくれないと困るのは俺の方というわけだ。


「リアが危険に飛び込むなら、俺も行かねぇとな」

「頼りにしてるわよ、ヴァン」

「任せろ。さて、この階段を降りれば、エレベーターだ」


この世界、エレベーターあるのか!?

口には出さなかったが、思わず驚いてしまった。


だが、よく考えてみれば不思議ではない。

エレベーターは元々、古代ギリシャの数学者アルキメデスが発明したもので、当時は人力で動かしていたそうだ。

現代科学を抜きにしても作れるなら、異世界にもエレベーターくらいあるのか……と納得しながら階段を降りた。


「おお、リア様。それに勇者様も」

「グレゴリー、先に来てたのね」


エレベーターの前には、謁見の間でも会ったグレゴリー司祭がいた。

彼はリア王女と少し言葉を交わすと、こちらに向き直った。


「おぉ、あなたは確か、迷うことなく世界を救うと宣言なされた勇者様!」

「剣城龍也です」

「タツヤ殿ですな。覚えておきましょう」


お互い会釈を交わしていると、更に別の足音がこちらへと近付いてきた。


「あれ?スーツのお兄さん?」

「……と、激マブ王女サマじゃん」

「あらあら?皆さんおそろいかしら?」

「なんかでっかい犬もいる!?」

「失礼な、俺はウルフだぞ!」

「「「「喋った!?」」」」


同じく謁見の間で出会った4人が、それぞれ別の廊下から現れる。


「全員揃いましたな」

「ビビッときて向かった先でかわい子ちゃんとWエンカとか、これが運命ってヤツぅ?」

「は?何言ってんのあんた」

「日本語でお願いできますか?」

「辛辣ゥ!」


眼鏡の青年が王女様たちにすり寄って、手痛くあしらわれる。

あいつ、謁見の間ではこんなチャラチャラしてたっけ?どっちが素なんだろうか……。


「もしかして、皆も声に導かれて?」

「ということは、君たちもそうなのか?」

「なんか、呼ばれてる気がすると思ったけど、気のせいじゃなかったんですね……」

「そのようです」

「マジかよ~、運命じゃねーのか……」


勇者全員を呼び集めるなんて、よほどの一大事なんだろう。


そういえば、魔王軍は一度この国に侵入しているんだっけ。

もしかすると、何か置き土産を残していったのかもしれない。


「とりあえず、地下に向かいましょう。話はそれからだわ」

「どうぞ皆様、エレベーターへ」


王女様と司祭に促され、俺たちはエレベーターへと乗り込む。

ゆっくりと扉が閉まると、エレベーターは徐々に下降し始めた。


□□□


「王女様、改めて天聖獣について説明をお願いしたいのですが……」

「そうね。他の4人もそうだけど、まだ詳しい説明をしていなかったわ」


そう言うと、王女様は他の4人にも視線を向ける。

眼鏡の青年も、お淑やかな女性も、気弱そうな男子高校生も、三つ編みの女子高生も。みんな、互いに目を見合せたあと、静かに頷いた。


「この下にある霊廟には、5体の天聖獣が眠っているの」

「テンセイジュウ……?」

「この世界には魔法の力を宿し、人間と言葉を交わすことができる生き物、『聖獣』がいるの」

「この俺みたいにな」

「「おぉ~!」」


ヴァンが自慢げに前足で自分を指さし、高校生2人が静かに目を輝かせている。

2人とも、歳相応の学生らしい反応で可愛らしい。


「あの~、もしかして庭園にいた亀のおばあさんも、その聖獣に含まれるの?」


お淑やかな女性が、おずおずと手を挙げる。


「ああ、ミドリに会ったのね。もちろん、彼女も聖獣よ」

「そうでしたか。ふふ、不思議な世界ですわね」


どうやら俺たちと分かれている間に、なにやら出会いがあったらしい。


「で、その聖獣たちの頂点に位置するのが天聖獣。全ての聖獣の祖とも、神の化身とも言われているわ」

「話のスケールが一気に飛んだな……」


メガネの青年が驚きを隠せない様子で呟く。


確かに、その説明だけでもどれだけ偉大な存在なのかが理解出来る。

選ばれし者に力を与える大いなる獣か……特撮でもよく出てくるし、ロマンを感じずにはいられないぜ。


「天聖獣はこの世界の守り神であると同時に、勇者の力の源でもあるわ」

「力の源?」

「天聖獣の加護を受ける事で、勇者は超人的な力を手にすることができるの。つまり、天聖獣は勇者にとって切り離せない存在になるの」

「なるほどね~」


聞けば聞くほど戦隊系のヒーローを彷彿とさせる話だ。

この先に危険が待っているかもしれないのに、俺のハートはロマンに燃えていた。くぅ~、早く会いたいぜ天聖獣!


「つまり、そこのスーツのバカは力を与えられる前に『ステータス・オープン!』ってしちゃったわけね」


そんな燃えるハートに冷や水をぶっかけるように、眼鏡の青年の全ッ然似てないモノマネが飛んできた。


「やめてくれ……傷口を抉らないでくれ……!」

「ま、まあまあ……ここに来た人たち、皆やってるらしいですし!」


少年、その気遣いは嬉しいが傷口に塩だぞ!

くっ……少し話題を逸らさなくては……。


「そ、そういえば王女様、天聖獣は『眠っている』と言っておられましたが……」

「ああ、休眠期の事ね」

「休眠期?」


幸い、王女様が説明を切り出してくれた事で、皆の興味はそちらに逸れたようだ。

密かにホッと胸を撫で下ろす。


「天聖獣は力を使い果たすと、身体を石化させて休眠期に入るの。次の目覚めまで眠り続けることで、力を蓄えるそうよ。そうやって悠久の時を生き続けているの」

「なるほど~……。ってことはさ、天聖獣が起きる前に勇者を仕留めるか、勇者が接触する前に天聖獣をどうにかしちゃえば、魔王軍は安泰なんじゃない?」


三つ編みの女子高生が、無邪気な笑顔で恐ろしい事を言ってのけた。

彼女の発言と表情のギャップにか、それとも俺の予感を裏付けるような結論だったからか……俺は思わずゾクリとする。


「まさか……」

「ありえない話でもないかと」


口を開いたのはグレゴリー司祭だった。


「此度の魔王はとても周到に感じます。120万もの軍の編成に記術書(スクロール)の強奪。おそらく何年、いえ何十年もかけて計画したものでしょう」

「って事はつまり……この先に向かうの、危ないんじゃない……?」


男子高校生の一言に、全員が言葉を失った。


グレゴリー司祭の言葉が本当なら、これから向かう場所には、魔王軍の罠が待ち受けている可能性が非常に高い。

この先に何があるのか分からない以上、下手をすれば全滅だってありえる。


今の俺たちには、危険に飛び込む覚悟が問われているんだ。


「だとしても、俺は行くよ。呼ばれているんだ、応えないわけにはいかない」


無論、俺の覚悟は決まっていた。

行くしかない。俺を呼ぶ声の導くままに。


「死ぬかもしれねぇんだぞ。お前、そこ分かってんのか?」


すると眼鏡の青年が、心底呆れ果てたという顔で俺に問いかけてきた。

眼鏡の奥から向けてくる目は、刺すような鋭さだ。


「どのみちここで逃げても、さっきの揺れの原因は消えるわけじゃない。城の人たちだって危険なんだ。どちらにせよ、誰かが行くしかない」

「……チッ」

「舌打ちした!?」

「ヘイヘイ、バカみてぇな質問した俺が悪ぅございました」

「なんでキレてんだよ……」


なんだかよく分からないけど、納得してくれた……のかな?


「皆様、まもなく霊廟に到着です。覚悟はよいですかな?」


グレゴリー司祭の言葉に、全員が顔を見合せた。


「俺はできてる。君たちは?」

「私はいいよ~。迷ってる暇ないし」

「私も同行させてもらいますわ」

「かわい子ちゃんたちに先越されるとか、ダサダサのダサじゃん。俺も行くわ」

「俺も……行きます!」

「決まりね」


謁見の間では返事を保留した4人も、一緒に行ってくれる事になった。


……一人で行く流れにならなかったことに、少しだけホッとした自分がいる事に気付かされる。

やっぱり、仲間がいるって大事なんだな。


「つきました、地下霊廟ですじゃ」


エレベーターの扉が開く。

その向こうには、壁掛けの松明で照らされた広めの廊下が真っ直ぐに続いていた。


そして……。


「ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!!」


地の底から響くような呻き声が、その奥から聞こえてきた。


「なに、この声……?」

「嫌な臭いだ。まさか……」


スンスンと鼻を鳴らした後、ヴァンが勢いよく走り出す。


「ヴァン!?どうしたのよ!?」

「急ごう!」


ヴァンの後を追って、俺も走る。

その後ろを王女様や、他のみんなが着いてくる形で俺たちは廊下を走り抜けた。


奥に見えてきたのは、観音開きの石の扉。

扉は少し開いているようで、中からの光源が漏れている。


「うそ!?誰かが霊廟を開けてる!?」

「なんですと!?」


王女様と司祭が驚愕する。

扉の前まで辿り着くと、俺とヴァンはそれぞれ左右の扉を全開になるよう押し開ける。


扉の向こうに広がっていたのは、体育館ほどの広さがある部屋と、その天井まで届くかと思われるほどの巨大な五つの石像。


そして、その石像の前に佇む……もとい、浮遊している真っ黒な巨体。


「ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!!」


それはボロ布のような黒いローブに身を包み、柱ほどの大きさの大鎌を握った、巨大な骸骨頭の霊だった。


「うそ……!?どうして死霊王(リッチーロード)がこんな所に!?」

ようやく変身が目の前まで迫ってきました。

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