ショウ(2)
ショウ:ハハッ……物分かりが、良すぎて、ダメだね。あーあ
スズ:(М)急に、姿を現したのは、黒髪の男性だった。現れたっていったけど、下を向いたら普通にいた。
スズ:(М)そいつは、少年のままで、止まったかのようなキラキラした瞳で、大きな前歯を見せて、笑っていた。
スズ:畑庄助……血抜き担当のショウ
ショウ:うへへへ、あったりーすごーい……さすが刑事さんだね
スズ:すぐに、俺を解放しろ
ショウ:ねぇ、いおとさんとか、刑事さんとか、呼ぶのめんどいからぁ。これからは、スズちって、呼ぶからね?
スズ:いや、スズちはない。お前、センスないな……なんて遊んでる間に、警察が来るぞ
ショウ:ひどくない!?めっちゃかわいいと、思ってたんだよ?ぶうっ
スズ:(М)遺体からの見立てだと、冷静沈着で、計画的な大人の女性の犯行が、推測されてたんだけど、全然違う。ショウは無邪気だし、こう見えて、28歳の大人の男性だ。
スズ:(М)看護師の専門学校を卒業後、眼科に配属になり、現在は血液内科に配属されている。
スズ:(М)病院の聞き取りでは、少し口調はほんわかしていたけど……これがこいつの本性か。
ショウ:でも、その状況じゃあ……何言われても、怖くないよ
スズ:(М)ショウはニヤついた顔をして、俺の目の前でメスを見せつける。
スズ:間違ったら、お前が死ぬから、やめろ
ショウ:ちょっと、ちょっと!そこは喚くとこだよ、下手くそ!
ショウ:今、追い詰められてて、スズちの生命は、ボクに、掛かってるんだよ?生きるも、死ぬも、ボク次第なんだよ?
スズ:(М)全く、耳に入ってこない……その前に、こいつが、人を刃物で傷つけるのは、不可能。だって、ショウは血友病だから。
スズ:(М)遺伝性の病気で完治する方法はない。なぜなら、血を固める遺伝子を、生まれつき、持っていないから。だから、血が出たら、止まらない。
スズ:(М)一応、遺伝子の注射を定期的にするとか、輸血をするとか、の対症療法をすれば、日常生活は送れるらしい……詳しくは知らないけど。
ショウ:あ、もうそろそろいいから、降ろすね
スズ:ん?ああ
ショウ:(М)滑車を、動かすところへ来たぼくは、重りを外していく。まぁ、スズちは、男性にしては軽い方だから、すぐに出来た。
ショウ:(М)ハンドルを回して、ジャラジャラと鎖が巻き取っていくと、スズちの身体がゆっくりと降りていく。
ショウ:(М)スズちの浮いていた足が地面を滑り、お尻がトンと地面につく……医療用語で、あえて言うなら、長座位になっているね。
スズ:なにをする気だ……!?
ショウ:溢れるとこだった、ああ危ない危ない!
スズ:(М)全然、危機感なさそうに、話すショウは、俺の足元に駆け寄ってきて、慌ただしく作業を始めた。
ショウ:(М)スズちの左足の甲から、出ているルートが、輸血パックに繋がっている。そこには、赤い液体……血液が溜まっているの。スズちの血が、ね
スズ:なるほど、血抜きはこうやってんのか……裏付けが取れたな
ショウ:いやぁさ、最近の女性たちは、防犯しっかりしてるから、なかなか、獲物がいなくて、困ってたの。でも、ボク専用の輸血ストックが無くなりそうだったから……ごめんねぇ
スズ:(М)ショウは、足の甲から針を静かに抜き、すぐ力強く、止血をしてくれた。よし、これで逃げれるぞ。
ショウ:(М)ルート内に残っている血液を、全てパックの中に流し、鉗子で、ルートを挟む。
ショウ:(М)そして、固まる前に、素早く抗凝固剤と血液を混ぜ合わせる……これでスズちの血が、ぼくのものに。くふふ
スズ:お前には死なれたら困るから、今回のことは目を瞑ってやる。すまないが、これで俺は帰らせてもらうからな
ショウ:協力してくれてありがとう。スズち
スズ:ああ。でもな、絶対にお前らを捕まえにくる。証拠、揃ってしまったからな
ショウ:そっか、やっぱり刑事さんだもんね
スズ:(М)きっと、近くにリュウがいるはず。そいつは移植外科の医師で、元レシビエント。
スズ:(М)遺体を解剖し、移植可能な臓器だけを摘出して、臓器売買をしているやつだ……そいつも一緒にお縄に掛けてやる。
スズ:それが、俺の仕事だから