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悪魔的介抱

……………………


 ──悪魔的介抱



《──きて! 起きて! しっかりして!》


 少女の声がする。的矢には聞きなれた声だ。


「あ、ああ。畜生。どこだ、ここは?」


 的矢の意識が戻り、彼は周囲を見渡す。


《ああ。起きた。よかった。大丈夫? 近くに化け物はいないから安心して》


 ラルヴァンダード。お前が見てたのか?


《他に誰が見ておくんだい? 君はテレポーターに引っかかって、味方からは孤立してしまったんだよ?》


 そうだった。畜生。どうしたものかな。


《幸い、10階層も離れてない。上を目指せば合流できるよ》


 本当か?


《今の君に冗談をいうほどボクは間抜けじゃないよ》


 そうか。


 それほど不味いってことかと的矢は思う。


 このふざけた存在が冗談も言えないというのは本当に不味いってことだ。まさか51階層にしてこの手のトラップに引っかかるとはついてない。


 そう思いながら、的矢は装備を確認する。7.62ミリ弾を使用する自動小銃、健在。マガジンポーチに収めた銃弾はまだほとんど使ってない。お神酒もある。それからマチェットとナイフも。


「上層を目指すか」


 その前に的矢は友軍との交信を試みる。


『アルファ・リーダーより全員。誰か聞こえないか。誰か応答しろ』


 反応はない。戦術脳神経ネットワークからも切り離されてる。


 クソみたいな状況が一度起きると連鎖的にクソみたいな状態が続くというが、今の状況はまさにその通りだ。


 友軍との通信手段はなく、ダンジョンのどこかも分からず孤立している。戦術脳神経ネットワークにアクセスできないので、データベースも使えない。この位置の地図も手に入らない。最悪だ。最悪に最悪が重なっている。


《まずは味方と合流しないと》


 そうだな。それが優先だ。


《今回は特別にボクが様子を見て来て、報告するからそれに従って》


 お前が俺を化け物の群れに誘導しないという可能性は?


《この期に及んでも信じてくれない?》


 お前も所詮は化け物だろう?


《友好的な化け物さ。信じた方がいいよ。今回は君をサポートしてくれる仲間はいないんだからね》


 分かった。なら、今回はお前がポイントマンだ。畜生め。


《任されました!》


 ああ。任せた。


 ラルヴァンダードはにやりと笑うと、的矢の前方を進んだ。


 ラルヴァンダードは周囲を観察しながら、的矢を導く。


《敵。レイスが5体。やれる?》


 ああ。やってやる。


 お神酒を垂らした銃弾を装填し、レイスに向けて引き金を引く。


 レイスは銃弾が当たったと同時に消滅し、的矢に向かって来るが、彼らが的矢の下に到達する前に全滅した。


 クリア。


《クリア。この調子で進んでいこう》


 信じてるからな。裏切るなよ。


《裏切らないよ。見捨てないよ。おいていかないよ。言っただろう。ボクは君のことが好きなんだから》


 そうかい。


 だが、的矢もこのふざけた存在に愛着を示しつつあるもの事実だった。


 この先、どうなるかは分からないが、少なくとも今は味方だ。今だけは味方だ。


《これからも味方であってもいいんだよ?》


 なら、俺を無事に友軍のいる場所まで送り届けてくれ。


《アイアイ、サー》


 なにがアイアイ、サーだ。ふざけずやれ。


《ユーモアは必要だろう》


 冗談を言う間もないほどやばい状況じゃなかったのか?


《君が起きたから一先ずは大丈夫》


 ……そうだったな。


 的矢が気を失っていた間、ラルヴァンダードがずっと見守っていてくれたのだ。的矢を起こそうとしながら。それを思うと的矢はラルヴァンダードを有害な化け物と単純には論じられないのを感じた。


《少しは信頼してくれる気になった?》


 少しだけな。


《小さな一歩から》


 ラルヴァンダードはそう言うと軽快に進む。


《敵。ゾンビ、6体。何かを追いかけている。人間だ》


 生存者か?


《恐らくは。彼らが今まで生き延びられていたのは不思議なものだね》


 畜生。この状況で生存者とご対面とは。


《支援を受けられない状況では、生存者は足手まといだね》


 その通りだ。だが、俺には彼らを保護する義務がある。


《律儀だね》


 それが軍人だ。


 的矢はゾンビを追跡し、照準に収める。


 そして、射撃。的矢の銃撃でゾンビたちが次々に倒れる。


「大丈夫か!」


 的矢は熱光学迷彩を解除し、生存者に駆け寄る。


 生存者は20代後半ごろの女性と6、7歳ほどの男児だった。


「だ、大丈夫です。その、救援部隊の方ですか?」


「あいにく、今はこっちも救難要請を出している最中だ。だが、50階層までは制圧している。そして、今は救難部隊との合流を目指している」


「そ、そうですか。助かりますか?」


「それはトライしてみないことには分からない」


「そんな……」


 女性が男児を抱えたままへたへたと膝をつく。


「ここでそうしている暇はない。ここが何階層かも分からないんだ。俺が案内するからとにかく上層を目指すぞ。こっちの救難部隊と合流すれば、助かる」


「わ、分かりました」


 女性は気合を入れるようにして立ち上がった。


《本当に助けるの?》


 ああ。助ける。それからこれからも道案内を頼む。


《了解》


 頼むぞ。


 的矢とラルヴァンダードはそう言葉を交わすと、上層を目指して進んだ。


 レイスは本当に頻繁に出没するし、ゾンビの数も馬鹿にならなくなる。


 それでいて、的矢は戦力外の民間人の世話までしなければならない。


 これが軍人の仕事だとしてもかなり堪える。


《おいていけば?》


 ダメだ。俺たちは宣誓しているんだよ。日本国と日本国民、そして日本国の自由民主主義を守るってな。ダンジョンカルトでもない民間人をおいていくことはできない。いっそダンジョンカルトであってくれれば楽だったんだがな。


《ダンジョンカルトだと思い込むことはできるよ》


 無茶苦茶を言うな。


《分かってる、分かってる。君のためにナビゲートしてあげよう》


 ラルヴァンダードは先行して進み、トラップや化け物について報告する。


 的矢はトラップは回避し、化け物は殺し進んでいく。


《どう? ボクのポイントマンとしての能力は?》


 優秀だ。


《でしょ、でしょ? 君を導いてあげるからね》


 まさか俺が銃弾を叩き込んだ相手からそんな言葉が出るとは思わなかったよ。


《人生、何が起きるか分からないものだね?》


 全くだ。


 的矢はラルヴァンダードの元気そうな姿を見てそう言った。


 そう言いながらも、彼は記憶を辿っていた。


 初めてラルヴァンダードに出会った時、彼がラルヴァンダードに7.62ミリ弾を叩き込んだ時、つまり市ヶ谷地下ダンジョンを攻略していたとき。


 あの時のことは今でもはっきりと思い出すことができる。


 今から2ヵ月ほど前。市ヶ谷(国防省)の地下が突如としてダンジョンに変わった日のときのことは。彼が数名の仲間とともに、陸奥とともに化け物とダンジョンカルトで満ちた市ヶ谷地下ダンジョンを攻略したときのことは。


 初めて彼が“迷宮潰し”を行った1週間のことは。


……………………

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