スカーレット・デルタ
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──スカーレット・デルタ
体長は40メートル近い。鱗は赤。ワイバーンと違い4本の腕と別に巨大な翼を持っている。その翼はこの狭い地下空間で役立つことはほぼないだろう。だが、それは見るものに威圧感を与える。
『目標視認。スカーレット・デルタ。攻撃を開始する』
『ああ。蜂の巣にしてやれ』
スカーレット・デルタ──レッドドラゴンも所詮は獣だ。アンデッドのように特別な方法でないと殺せない相手ではない。対戦車ロケット弾や対戦車ミサイルでちゃんと撃破できる相手だ。
20ミリ機関砲を始めとする武器が火を噴き、レッドドラゴンに銃弾と爆薬が叩き込まれる。猛烈な攻撃が行われ、レッドドラゴンが歩みを止める。
『やったか?』
“火竜”のオペレーターがレッドドラゴンが歩みを止めたのに、手ごたえを感じた。
だが、残念なことにレッドドラゴンは倒れる様子はなかった。まるで虫に刺されたかのように鬱陶し気に、体を振ると、口を大きく開いた。
『退避、退避。ブレスが来るぞ』
レッドドラゴンの口の中にワイバーンとは比べ物にならないレベルの熱量の炎を蠢かせるのに、的矢たちが散開して被害を抑えようとする。
だが、最初にレッドドラゴンに牙を剥いた“火竜”は逃げきれなかった。
火竜が炎に飲まれる。
炎は放射線状に広がり、辺りを覆い尽くす。
『“火竜”のオペレーター。無事か? 応答せよ。無事か?』
『無事だ。ただ、兵装が全部イカれた。攻撃は不可能。繰り返す。攻撃は不可能』
『畜生。お前を助けたいが、こっちにも余裕はない』
『覚悟はできてる』
そう言って“火竜”のオペレーターは沈黙した。
再び歩き出したレッドドラゴンは火竜を腕で押さえるとギリギリと音を立てて破壊しようとする。だが、流石に軍の装備するアーマードスーツはそう簡単には破壊することはできない。
『クソ、クソ、クソ。どうにかして“火竜”のオペレーターを助けるぞ。対戦車ロケット弾を準備。叩き込め』
『しかし、対戦車ミサイルが通用しなかったのに』
『いいからやるんだ。あのまま“火竜”のオペレーターが踏みつぶされてもいいのか? 戦友を見捨てるのか、アルファ・ツー?』
『……分かりました。やりましょう』
全員が対戦車ロケット弾を構える。
『なるべく頭部を狙え。効果はあるはずだ』
『了解』
的矢たちはレッドドラゴンの頭部を狙う。のっそりと動く頭部の未来位置を予想し、半自動誘導システムにデータを入力する。
『撃て』
6発の対戦車ロケット弾がレッドドラゴンに向かう。
6発中命中したのは2発。レッドドラゴンの顔面が揺さぶられる。
だが、当たり所によっては第3世代の主力戦車ですら撃破可能なはずの対戦車ミサイルを食らっても、レッドドラゴンの顔面に変化はなかった。ただ、恐ろしいほどの咆哮を上げて、威嚇するだけだった。
『諦めるな。相手は所詮は獣だ。殺せる相手だ。再装填して攻撃準備』
『ボス、ブレスです!』
『クソッタレ。退避、退避』
レッドドラゴンの口の中で炎が蠢き、再び掃射される。
『まだやるのか? 一度撤退した方がいいんじゃないか?』
『俺たちがスカーレット・デルタの注意を引き付けておけば、“火竜”のオペレーターの生存率は上がる。いいから黙って撃て』
『クソ。こいつはかなりハードだ』
ネイトがぼやくのにシャーリーがレッドドラゴンに狙いを定める。対戦車ロケット弾ではなく、自動小銃で。
『何をやっている、シャリー』
『確実に急所を撃ち抜く』
シャーリーはそう言って引き金を引いた。
レッドドラゴンの眼球に吸い込まれるように銃弾が直進し、その瞳を貫いた。
また恐ろしい咆哮を上げ、レッドドラゴンが炎を蠢かせる。
『ナイスだ、アルファ・シックス』
レッドドラゴンの放った火炎放射は明後日の方向に飛び、その隙に的矢たちが対戦車ロケット弾を再装填する。とは言え、ミドルスパイダーボットから弾薬を回収しなければ、このままでは弾切れになる。
この1発を撃ったら、残り1発で終わりだ。
『再装填完了』
『ぶちかませ』
再びレッドドラゴンの頭部を狙って対戦車ロケット弾が飛翔する。
6発中、命中したのは3発。だが、依然として効果なし。
『クソッタレ。こんなにタフだとはな。流石はクソダンジョンだ。いつも俺たちの想像を上回るクソッタレぶりを示してくれる』
的矢はそう言いながらラスト1発の対戦車ロケット弾を装填する。
『くたばれ、化け物』
そして、またしても対戦車ロケット弾が飛翔する。
6発中、命中は1発。命中寸前にレッドドラゴンが頭部を動かしたことで狙いが逸れた。だが、1発は命中した。効果は?
『効果を認めず。効果を認めず』
『クソ』
最後の弾も切れた。
『大尉。諦めるにはまだ早いぜ?』
『曹長。どうするつもりだ?』
『なあに。ちょっとしたテクニックさ』
信濃はそう言うとレッドドラゴンに向けて突撃を始めた。
『な……。おい。馬鹿。何をしている』
的矢が止めるのも無視して信濃はレッドドラゴンに突撃する。
そして、熱光学迷彩を解除するとレッドドラゴンの前に立った。
「おい! クソ化け物! こっちを見ろ!」
信濃が叫ぶのにレッドドラゴンが信濃を片目で見る。
「てめえなんか怖くはないな! あたしを殺してみろ!」
信濃の叫びにレッドドラゴンが反応した。
レッドドラゴンは頭から信濃に食らいつき、そのまま食らった。
『ボス、ボス。曹長が……』
『あの馬鹿、まさか……』
次の瞬間、レッドドラゴの腹部が揺らいだ。ドオンと脈打ち、レッドドラゴンが苦し気に呻く。そして、大量の血を吐き出し、藻掻き始めた。
そして、倒れると必死に藻掻きながら呻き声を上げるも、そのまま動かなくなり、灰になっていった。
『曹長。生きているな?』
『……ばっちりだ』
灰の中から腹部と両足の千切れた信濃が姿を見せた。傷口は蠢き、修復を始めている。既に7割ほどが元通りだ。
『馬鹿が。いくら不死身だからってこんなことをする奴がいるか。頭が吹き飛んだら回復しないかもしれないんだぞ』
『ところがどっこい。頭はさっきまで吹き飛んでた。修復したところだ』
『生体インカムも?』
『あたしの体の一部と見做されている。義肢はちょっと無理だったみたいだけどな』
的矢は呆れた様子で信濃を見る。
『いいか。俺の指揮下にあるならこんな無茶はもうするな。心臓に悪い』
『すまん、大尉。だが、勝てたからいいだろ?』
『まあな。一部的には認めてやる』
そこでアルファ・セルの隊員たちが集まってきた。
『よう。悪いけど義肢が吹っ飛んじまった。誰か担いでくれないか?』
『はいはい。私が連れて行きますね』
椎葉が信濃をお姫様抱っこで抱える。
そこでシャーリーがやってきた。
『あなたの勇敢さのおかげで勝利できた。あなたは立派』
『そいつはどうも。あんたの狙撃もイカしてたぜ?』
そして、ふたりがクスクスと笑う。
『さて、信濃曹長。後で義肢のスペアを付けるから報告書を準備しておけよ』
『ひでえや』
『一応手伝ってはやる。この手のことは書類だ。とにかく書類だ。自分がハイテクの玩具で遊んでいるってことを忘れるな、曹長』
『了解、大尉』
第5世代の人工筋肉はまさにハイテクの玩具だ。
『アルファ・ツー。准尉。“火竜”のオペレーターにもう安全だと伝えて、脱出を手伝ってやれ。戦闘終了だ。帰還する』
『了解』
こうして的矢たちは50階層を制した。
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