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贖罪

……………………


 ──贖罪



 的矢たちアルファ・セルは49階層に降りた。


 ここを越えれば、50階層のエリアボスとご対面だ。


 マイクロドローンが先行し、信濃、的矢、陸奥、椎葉、ネイト、シャーリーが続く。


『振動探知センサーと音響探知センサーが反応。人間を示している』


『生存者とやらか』


『99%ダンジョンカルトだぜ』


『だろうな』


 上層で見た狂った発言を行う男の姿が思い浮かぶ。


『だが、確認するのが俺たちの仕事だ。さあ、進め』


『了解』


 人間の反応が示される場所へと的矢たちが近づく。


「──今こそ罪深さを認識するべきなのである! 我々人間の罪深さゆえにこの地獄は生まれたのだ! 目をそらしてはならない! しっかりと罪に目を向け、贖罪を行わなければならない! それこそが我々のやるべきことであり──」


 上層で聞こえた声と同じ声がする。


『ああ。ダンジョンカルトだ』


『そう決めるのは確認してからだ』


『間違いないね。あたしの今月の給料を賭けたっていい』


 マイクロドローンが先行して、声のする室内を覗き込む。


『ビンゴ。ダンジョンカルトだ』


『ぶち殺して進むしかないな』


 狂った文様。死体のオブジェ。人間を貪っている人間。


「罪は罰を! 我々はもはや赦されない! さあ、今日の罰を受けるものは──」


『スタングレネード』


 強襲制圧用スタングレネードが投擲される。


「うわっ──」


 ダンジョンカルトがパニックに陥る。


 そこに銃弾が浴びせられる。


 対装甲車両用の徹甲榴弾は柔らかな人体内では炸裂せず貫通してから炸裂する。爆発が起こり、撃たれた人間以外の人間も倒れる。


 射撃は継続され、50名程度のダンジョンカルトが瞬く間に数を減らず。


『こりゃオーバーキルだ。人体が真っ二つだぜ』


『うへえですよ』


 信濃と椎葉がそう言いながら淡々と射撃を継続する。


『ひとり、生かして確保したい。エリアボスについて何か知っているかもしれないからな。皆殺しにはするなよ』


『了解』


 とは言え、ダンジョンカルトは混乱状態で右往左往し、徹甲榴弾の破壊力はでたらめに撒き散らされる。だが、こんな状況でも捕虜を取ることを訓練されてる的矢たちだ。1名を戦術脳神経ネットワーク上でマークし、その人物を生かしたまま捕えようとする。


『確保』


『よし。クリアだ』


 そして、無事1名を確保した。


『お話を聞かせてもらうとしようか』


 的矢が熱光学迷彩を解除する。


「ダンジョンカルトだな。話を聞きたい。この下にいる化け物については知ってるか」


「罪を、罪を、罪を、罪を償わなければ……」


「俺たちに化け物についての情報を寄越すことが贖罪だ。さあ、話せ」


 的矢がそう言ってサプレッサー付きの45口径の自動拳銃で男の膝を撃ち抜く。


「ああ! ああ! 蛇神様だ! 蛇神様がおられる!」


「蛇神? どんな奴だ。具体的な特徴を言え」


「し、知らない。知っている我らが導き手は──」


 男が射殺されて胸が弾け飛んでいる男の方を向く。罪がどうのこうのと騒いでいた人間である。恐らくはこの男がダンジョンカルトのリーダーだったのだろう。


「クソッタレ。なら、知っていることを全部話せ。贖罪とはなんだ?」


「へ、蛇神様のところに行き、贄になることだ……。より罪深きものたちは我々の食卓に並ぶ。我々が食し、蛇神様が食することで重い罪も償われるのだ……」


「それで人間を食ってたのか。狂人どもめ」


「く、狂ってなどいない! 我々は正気だ! 我々にはこうして罰が下ったではないか! それをどう説明するんだ!?」


「お前らを撃ち殺したのは軍の命令だからだ。それ以上でもそれ以外でもない。罰を下すとするならば──」


 男のもう一方の膝が撃ち抜かれる。


「ああ! ああ! やめろ!」


「そう、これが罰だ。罰が欲しかったんだろう? たっぷり味わえよ」


 的矢はそう言って今後は何も言わず男の手を撃つ。


『不味いですよ、アルファ・リーダー。民間人の殺傷は……』


『こいつは民間人じゃない。ダンジョンカルトだ。化け物だ。それに安心しろ』


 的矢が男の頭を弾き飛ばした。


『死人に口なしだ』


 的はそう言って自動拳銃をホルスターに収める。


『目標であるエリアボスはこれまで識別されたものだとペール・ウィスキー、あるいはツイスト・ウィスキーの可能性がある。どれも対戦車ロケット弾でようやく撃破できた相手だ。舐めてかかるな』


『ペール・ウィスキー? ツイスト・ウィスキー?』


『ブルーワームとジャイアントワームだ。ヘビと聞いて思い浮かぶのはここら辺だな。他の連中はヘビと呼ぶようなものじゃない』


『ジャイアントワームは不味いぜ。あれにはアーバレストMK.3でようやく撃破できたような化け物だ』


『化け物で不味くない奴なんていない。どんな化け物だろうと状況によっては脅威だ。ダンジョン四馬鹿でさえもな』


 的矢はそう言って後からついて来たミドルスパイダーボットから対戦車ロケット弾を下ろす。陸奥たちもそれぞれが対戦車ロケット弾を手にする。


ヤンキー(アメリカ人)。ここには対戦車ミサイルなんて上等なものはない。頼もうと思えば手に入るだろうが、時間がかかる。やれるだけやってみて、それでダメなら神様にお願いするさ』


『上等だ。こちらとて伊達に特殊作戦部隊にいるってわけじゃないことを教えてやる』


 ネイトとシャーリーも対戦車ロケット弾を掴む。


『アルファ・リーダー。アルファ・ファイブが言うように対戦車ミサイルを調達しては? その方が楽になりますよ』


『確かにな。だが、大丈夫だ。こいつが近くに来てる』


『ああ。なるほど。それでは戻る必要はありませんね』


『理解したな。結構。では、始めよう』


 的矢たちは対戦車ロケット弾を背負っていよいよ50階層のエリアボスに挑む。


『ボス。ワーム系ってどうにも苦手なんですけど』


『文句を言うな。それにその苦手っていうのは、生理的嫌悪感か?』


『そっちです。ぬるぬるしてて気持ち悪いというか』


『あのな。これまで散々グロテスクな死体や化け物を見てきただろう? それでもヘビごときがダメなのか?』


『人間、苦手なものはあると思います。ボスは何が苦手です?』


『お前との無駄話』


『酷い』


 椎葉はそう言って黙った。


《ダンジョンカルトなんかの情報を信じて大丈夫?》


 他に何か情報源でもあるのか?


《ワーム以外に何かいるよ。絶対にね》


 だとしても、殺すしかない。


《そうだね。化け物を殺して、殺して、殺して、進み続けるしかない。この熊本ダンジョンという名の地獄に潜るしかない。だからね。情報は慎重に精査した方がいいよ。ダンジョンカルトのあの哀れな男は、化け物の姿を見たわけじゃない。連中の指導者にしたところで、どこまで信頼できるか分からない》


 じゃあ、どうしろっていうんだ?


《備えよ。備えよ。常に備えよ。何があっても驚かないことだね。驚きは混乱を、混乱は敗北を招く。そういうものだよ。ボクは君に死んでほしくない。ボクは君のことが大好きだからね》


 そうかい。まあ、言われなくても備えはするさ。


 準備ができていれば何が出てこようと恐ろしくはない。そういうものだ。


……………………

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