再びダンジョンへ
本日1回目の更新です。
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──再びダンジョンへ
椎葉はすっかり卵肌になったと大喜びだった。的矢がナノマシンでアンチエイジングしているから一緒だろと指摘すると『ナノマシンにプラスされた感じなんです』と反論していた。どうプラスされたかは謎だが。
それから温泉旅館で料理を味わい、椎葉と信濃が揃って酔っ払い、熊本市に戻り、商店街でシャーリーとネイトが和服を買い、着付けを学び、双方の交流が進んだ。ネイトと的矢は的矢が意識的に弾いているので、交流は進まない。
そして、1週間の休暇が終わり、ダンジョンに戻ってきた。
熊本ダンジョン上層は既に完全に正常化しており、階段は直通になっていた。それで40階層まで一気に降りると羽地大佐が出迎えた。
「休暇はどうだった、的矢大尉」
「楽しめましたよ」
「それは結構。また地獄に飛び込むわけだからな」
羽地大佐はそう言って肩をすくめた。
「この階層の除染は完全に?」
「完全に、だ。徹底した。それで時間がかかったんだからね」
「助かります」
ホームになる基地が汚染されていては、碌に動けない。
「だが、ダンジョンに関しては悪いニュースがある」
「何です?」
「50階層までは城塞型と見られる構造をしている。広い空間に下層に行くほど広くなる塔。これの意味は分かるだろう?」
「飛行型が大量に発生する可能性あり、と」
「そういうことだ。そして、さらに悪いニュースだが、生存者がいる。彼らを救出しなければいけない。できるかね?」
「できるように訓練されているのが我々ですよ」
「頼もしい限りだが、無理はしないでくれ」
羽地大佐は必ず自分の命令が無茶かどうかを確かめている。そして、命令はシンプルだ。常にシンプルだ。ダンジョンに潜って、生存者を救助せよ。そして、何より全員生き延びろと。
「ダンジョンカルトの場合は?」
「殺していい」
「了解」
ROEもシンプルだ。化け物とダンジョンカルトは殺せ。
「では、装備を整え次第、攻略を開始します」
「任せたよ」
的矢は羽地大佐に敬礼を送り、武器弾薬庫に向かった。
「全員、装備を整えろ。次の階層は飛行型の巣窟である可能性が高い。空中炸裂型グレネード弾はたんまり持っていけ。それからミュールボットは引き続き使えるぞ」
「ミュールボット、使えるんですか?」
「返せとは言われてないからな」
「それじゃあ、使わせてもらいましょう」
的矢が言うのに椎葉が頷いた。
「城塞型ですか?」
「ああ。完全にここから先はダンジョンってことだ。もう元の構造は全く残っちゃいない。ダンジョンに侵食され切っている。だというのに、生存者がいるそうだ」
「99%ダンジョンカルトですよ」
「確認するまでは何とも言えないんだよ、准尉。俺もそう思うがな」
こんな深層の、元の構造がほぼ残っていない階層であっても生存者がいる、などということはほとんどない。全員がダンジョンカルト化しているのが結末だろう。
とは言え、連中が捧げる生贄になる住民も僅かにはいるはずだ。そういう住民は救助しなければならないだろう。
それ以外は皆殺しだ。
化け物も、ダンジョンカルトも、全て殺す。
「とにかく、装備を整えろ。確実に仕留めに行くぞ。城塞の中にも外にも化け物がいるだろう。全て殺すのが俺たちの仕事だ」
的矢が7.62ミリ弾のマガジンをポーチに収める。
「今回はダンジョンの構造上、ブラボー・セルが積極的に援護できない。階層の外を飛び回る化け物がいたら、ブラボー・セルが狙われるからな。よって、可能な限り弾薬は抱えていけ。そして、派手にぶちかませ」
「了解」
バックパックいっぱいに必要な医療キットの他に武器弾薬を収める。
最高なのはあらかじめ上層から火力を下方に投射して、飛行型の化け物を皆殺しにしてやることだが、ダンジョン側もそれを想定しているのか、飛行型は全ては出て来ない。階層に至るごとに外に飛び出して攻撃を加えてくるのである。
グリフォンも、ヒポグリフも、ワイバーンも、そしてドラゴンもそうだ。
奴らはダンジョンに組み込まれた何かで動いている節がある。
それを解き明かすためにも的矢たちがダンジョンに潜るしかないのである。
「準備はできたか諸君。じゃあ、行くぞ」
的矢は全員が装備を完了したことを確かめると、ミュールボットを引き連れてダンジョンに潜り始めた。
羽地の言ったように上層は比較的狭い円錐台な形をしたダンジョンの構造だ。
外は真っ暗で塔の中をかつて街灯だった明かりが薄っすらと照らしている。また塔には窓のような構造があり、バルコニーなどもついていたりする。バルコニーは何かの構造物がよじ曲がってできたもののようだ。
『マイクロドローンをナイトビジョンにして外の様子を探ってみろ』
『了解』
マイクロドローンが外向かって飛んでいく。
『ああ。畜生。ワイバーンだ。飛行型はワイバーンだぞ』
『最悪だな』
ワイバーン。竜種のひとつ。強固な鱗と同時に火炎放射という遠距離火力を有する。目標の探知方法は嗅覚、聴覚、視覚、そしてゴーストたち同じシジウィック発火現象を探知する能力があると見られていた。
現に熱光学迷彩を使っても探知してくるのだ。何かしらの探知能力がある。
『どうする?』
『どうもしない。クソ化け物をぶち殺して前進する。全員、遮蔽物を確保し、射撃開始。クソ化け物どもを叩き落とせ。皆殺しにしてやれ。射撃開始』
『了解』
全員が窓を確保すると視神経介入型ナイトヴィジョンをサーマルに切り替える。
『撃て、撃て』
そして、外のワイバーン向けて射撃が叩き込まれた。
『銃弾が弾かれているぞ』
『クソ化け物め。7.62ミリ弾だぞ』
ネイトが焦ったようにそう言い、的矢が愚痴る。
『顔面を狙え。顔面に射撃を集中。目までは装甲に覆われていないはずだ』
『ブレスに注意』
火炎放射が掃射され、窓から炎が噴き出す。的矢たちは遮蔽物に隠れて、火炎放射をギリギリのところで回避する。
『ブレスは一発撃ったら次が来るまで最短でも5分かかる。その間に撃て』
『こんにゃろー!』
椎葉のラッキーショットがワイバーンの眼球を貫き、ワイバーンが落下していく。
『いいぞ。撃て、撃て』
『ワイバーンが集まってきてる。ブレスがまた来る』
再びの火炎放射。ちりちりと熱光学迷彩の焦げる臭いがする。
『アルファ・ツー。50口径は使えるか?』
『ダメです、アルファ・リーダー。ブレスの頻度が高くてまともに設置して撃てません。せめてブレスがどうにかなればいいのですが』
『こちらで盛大に陽動する。その隙に叩き込め』
『了解』
的矢たちは41階層にて既に危機的状態にあった。
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