動き回る植物
本日1回目の更新です。
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──動き回る植物
半日経たずして、UGVが到着した。それから面白い装備も。
「こりゃ、ミュールボットじゃないですか」
「ああ。君たちが装備を大量に運ぶ必要性があると聞いてね。ついでに陸軍から拝借した。陸軍は気前よくとは言わないが、文句を言わずに貸してくれたよ」
ミュールボット。
貨物運搬のための4足歩行ロボットだ。人工筋肉で駆動し、最大で60キロの荷物を、時速20キロの速度で運搬できる。高度なセンシング技術が使われており、地形を見て、把握し、動き方を決め、目標の地点か追随する人物に沿って荷物を運ぶ。
「これがあれば相当な数の爆薬が運べますよ。感謝します、大佐」
「ああ。小型UGVもこれに載せて運ぶといいだろう。この60式自走運搬車は運搬能力もさながら、静音性も高い。文句なしの装備だと思っているよ」
「早速使わせていただきます」
「ああ。好きに使ってくれ」
これで小型UGVが嵩張る問題は少しは解決された。
日本陸軍の小型UGVは一昔前の自動掃除機と同じ程度。偵察が主な目的で、様々な用途に使用可能なカメラと放り投げても駆動するタフさを備えている。
これがあればダンジョンをより安全に探索できるだろう。
ただ、残念なのは価格とマニュピレーターアームがついていないことだ。ちょいちょいと怪しいところを突いて、撤退と言うことはできない。それから価格は十数万するので、ほいほいと使い捨てにもできない。
軍隊の装備というのはその武装を買う人間が限られているため大量生産というものがなく、民生品のパーツを使用するなどして価格を抑えようとしても、どうしても高価な装備になりがちなのである。
ミュールボットは消防や警察でも導入されているため比較的価格は抑えられているが、小型UGVは軍隊ぐらいしか使う人間がいないので、価格はどうしても高くなる。それでも一発2000万の対戦車ミサイルと比較すれば安い方である。
「おい。いいものが届いたぞ」
「わあ。ミュールボット! これで楽になりますね!」
「ああ。大量の爆薬と小型UGVを搭載して、進めるだけ進むぞ。潜り続けろ、だ」
椎葉が喜びの声を上げ、的矢たちはミュールポッドに手榴弾やミュート爆薬の詰まったバックパックや小型UGVを積載量ギリギリまで詰め込んだ。
「では、出発だ。34階層までは行きたいところだな」
ミュールボットの追随対象は椎葉に設定し、的矢たちはミュールボットとともに地下に降りていく。とりあえずは32階層。まだダンジョンは再構成されていないはずだが、念のために早速小型UGVを先行させる。
小型UGVは軽快に進んでいき、トラップがないことを知らせた。
小型UGVはテンタクルや他の待ち伏せ型が反応する程度の振動も発するため、何かあればすぐに反応が返ってくる。反応があればすぐに小型UGVを引き戻す。テンタクルや他の化け物に食われないように。小型UGVの操作は信濃の視界を通じて、的矢が行った。
小型UGVの予備は4機。全てを使い果たしたら撤退せざるを得ないので、なるべく食われないように扱うしかない。
『33階層だ。死体の位置で待ち伏せ型を把握しつつ、小型UGVで索敵する。アルファ・スリー、UGVから目を離すなよ。お前の視界で操作するんだからな』
『あいよ、アルファ・リーダー』
信濃の視界で的矢が小型UGVを操作する。
『死体の傍だ。さて、どうだか』
的矢が慎重に小型UGVを進める。
『テンタクル』
『よしよし。食われなかった』
ギリギリのところで小型UGVは退避する。
そして、小型UGVが下がったところで手榴弾を投擲。テンタクルがそれを食って、爆発に巻き込まれる。ずるりとテンタクルの死体が垂れ下がる。
『アルファ・スリー、マチェットでテンタクルを切断してから前進しろ』
『了解』
テンタクルの死体を信濃がマチェットで斬り落としてから前進する。
『ああ。畜生。茂みになってるぞ、アルファ・リーダー』
『クソ。ついてないな。茂みをマチェットで払いながら道を作れ。死体の位置を元におおよその待ち伏せ型の位置を割り出し、そして引き続き小型UGVを先行させる。振動探知センサーにも気を配れ』
『了解』
居住区はすっかり数十年の時が過ぎたかのような茂みに覆われていた。
だが、軍用の小型UGVはこういう場所でも活動できるように作られている。その点においては問題はない。ただ、それを操作する的矢が敵の位置を把握しにくくなり、小型UGVが食われる可能性が上がっただけだ。
だが、それが厄介なのだ。日本陸軍も軍都熊本とは言え、そこまで小型UGVを大量に保有しているはずがない。あまり食われ過ぎれば、小型UGV不足が起きる。そうして起きるのは、小型UGV不足による進軍速度の低下と部隊の損害だ。
進軍速度の低下はともかく部隊の損害だけは受け入れられない。
慎重に慎重を期して、小型UGVを運用するより他ない。
死体の位置から位置の分かる化け物はいいが、それ以外は素早い反応が必要だ。
と思っていた、その時、突如として地面に穴が開いた。
的矢は小型UGVが落ちそうになるギリギリのところで小型UGVをバックさせる。
『危なかったな、アルファ・リーダー』
『ああ。だが、引っかかったのが貴様じゃなくて無人機でよかったよ』
『言えてる』
そして、手榴弾を投擲する。再び口を開いた化け物は手榴弾を飲み込み爆ぜた。
『まだ振動探知センサーに反応がある。油断するな』
的矢が小型UGVを進め、信濃がマイクロドローンを飛ばしながら警戒する。
『振動の正体が分かった。ウォーキングツリーだ』
『クソ。ウォーキングツリーか。数は?』
『全部で24体。全てがこちらに向かって来ている。さっきの手榴弾の爆発が招待状になったみたいだな』
『分かった。全員、ガスマスク着用後、射撃用意』
重々しい足音が響いてくる。
的矢たちは息を潜め、銃口を真っすぐ前方に向ける。
そして、現れたのは足の生えた蔦の集合体としか言いようのないものだった。
『射撃開始。とにかく鉛玉を叩き込め。銃弾を浴びせろ』
的矢が指示を出し、信濃たちが発砲を開始する。
手榴弾が投擲され、重機関銃が火を噴き、銃弾の雨がウォーキングツリーに降り注ぐ。ようやく1体が倒れ、他がそのまま向かって来る。
『撃て、撃て。撃ち続けろ』
ウォーキングツリーは植物だ。心臓や肺などない。
彼らを止めるには銃弾を雨あられと浴びせて、木をへし折るしかない。
『クソ。止まらないな』
『任せろ、アルファ・リーダー』
『アルファ、ファイブ。何をするつもりだ』
『こういう時こそサーモバリック弾の出番だろう』
『馬鹿。止めろ』
的矢が止める間もなくネイトの手によりサーモバリック弾がウォーキングツリーの大群に向けて発射される。
爆風と熱が吹き荒れ、ウォーキングツリーが焼かれる。
と同時に、ウォーキングツリーから毒々しい紫色のガスが放出された。
『退避、退避。全員逃げろ。飲まれるぞ』
『なんだあれは』
『毒ガスだよ、馬鹿野郎』
紫色のガスはゆっくりと広がり、周囲のものを飲み込んでいく。
的矢は小型UGVを回収し、自分が殿になって部隊を撤退させる。
アルファ・セルは30階層を目指して撤退していった。
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