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化け物ぶっ飛ばし作業

本日2回目の更新です。

……………………


 ──化け物ぶっ飛ばし作業



『この先、化け物だ』


『ミュート爆薬を投下』


 時限信管を装着したミュート爆薬を最小量、前方の床に放り投げる。


 天井からテンタクルがすぐさま現れ、ミュート爆薬を掴むと引きずり込んだ。


 そして、爆薬が音もなく爆発し、天井が揺れる。


『クリア』


『クリア』


 テンタクルの残骸がどろりと地面に落ち、他に化け物がいないことが確認される。


『化け物ぶっ飛ばし作業も順調だな』


『全く。今のところ、出没する化け物がテンタクルだけってのが幸いか』


 待ち伏せ型植物系モンスターはいくつか種類があるが、そのうちいくつかは音も振動も発さず、じっと獲物を待ち続ける。


 信濃はそのような化け物にも用心しながら、緑一色のダンジョンを進んでいく。


『ストップ。振動はしないし、姿も見えないがこの先死体がある』


『いよいよか。手榴弾を使え』


『了解』


 信濃が手榴弾を前方に放り投げる。


 がぱっと床が開き、現れた口が手榴弾を飲み込み、そして爆発した。


『落とし穴型が来たな』


『こいつらは何の前兆もないから面倒だ』


『経験と勘、そして情報だけが頼りだな』


 的矢たちは未だに32階層を攻略中だった。


 テンポ的にはかなり遅い。アンデッドダンジョンだった20階層から30階層までの攻略のテンポならば、既に35階層付近に到達していてもおかしくない時間が経過している。それだけ的矢たちは用心しているということである。


『前方、恐らく落とし穴型だ』


『手榴弾がそろそろ品切れだな。ミュート爆薬を使え。せめて32階層は綺麗にしておきたい。1週間で再構成が行われるとすれば、1日に2階層進めれば十分間に合う』


『了解』


 不幸中の幸いは、まだ動き回るタイプの化け物が出没していないことだ。それが出没しだすと、階段までの最短距離を確保して前進するというのが難しくなる。ブラボー・セルに仕事を任せてもいいのだが、彼らに損害が出るのは、後方が脅かされることと同義だ。なるべくならば避けたい。


『いよいよ階段が見えてきた』


『用心しろ。連中は人間の心理を突くからな』


『らしいな。振動探知センサーが反応した。テンタクルだ』


 そして、いつものようにミュート爆薬を使ってテンタクルを葬り去る。


『これでクリアか?』


『恐らくは。なあ、UGV(無人地上車両)を手配してもらうわけにはいかいのか?』


『頼んでみよう。だが、そうなると大量のUGVを抱えていくことになるぞ』


『確かにな。食われまくるんじゃあ、補給が追いつかないか』


 安物のラジコンでもダンジョンで使えるレベルになると2万円はするもんなと信濃が愚痴る。2万円をボコすかどぶに捨てるわけにもいかない。


 それにラジコンは装備としてかさばる。今でもギリギリの量の荷物を背負っているのに、これにラジコンが加わると、動くだけで一苦労となる。移動型の化け物に出くわしたとき、そのような状況では不味い。


 だが、ちょっとした努力で命が助かるならばそれに越したことはない。的矢は羽地大佐に頼んでみるつもりだった。


『さて、32階層までは確保。進行ルートをAR(拡張現実)に記録し、戦術脳神経ネットワークでブラボー・セルと共有。弾薬を補充したら、33階層だ』


『了解』


 そして、的矢たちは一時的に引き上げる。


 元来た道を慎重に戻る。新しく化け物が住み着いていないか、事前の情報と照らし合わせて戻っていく。幸い、待ち伏せ型はダンジョンが再構成されない限り、移動するようなことはほぼない。


『なあ、ちょっとペースが遅いんじゃないか?』


『ああ? 食われたいなら勝手に食われていいいぞ、ヤンキー(アメリカ人)。だが、俺は自分のチームから死人を出すつもりはない。死にたいなら勝手に死ね』


『そういうつもりで言ったんじゃない。もっと物量を投入すれば楽なんじゃないかって言いたいんだ。UGVにせよ、手榴弾にせよ、爆薬にせよ。数を投入すれば、あっという間にダンジョンは制圧できるんじゃないか?』


『あんたの言わんとすることは分かる。だが、俺のチームが攻略を任されていて、俺は俺が最適だと思った方法でやる。ひとつ聞くが、アメリカ情報軍は植物系ダンジョンの攻略経験があるのか?』


『ない』


『なら、大人しく従っておけ』


 的矢はそう言うと階段を上っていき、30階層に戻った。


 羽地大佐からARに通知が来ている。呼び出しだ。


「小休止だ。装備を補充したら、休憩しておいていいぞ」


「了解」


 的矢は部下を休ませている間に、羽地大佐との話を済ませることにした。


「的矢大尉。30階層以降はどうだった?」


「植物系ダンジョンです。待ち伏せ型が今のところ大多数を占めています。ですので、装備としてUGVを配備していただけると助かります。民生品のラジコンでいいので」


「分かった。すぐに手配しよう。攻略はどれほどかかりそうかね?」


「1週間以内には完了させます」


「君は頼もしいね」


 そこで羽地大佐が渋い顔をする。


「焦る必要はないよ。ダンジョンが再構成させれてもブラボー・セルだっているし、増援の要請はできる。君たちが生き残ることこそが私にとっては何よりも重要なんだ。まあ、君なら分かってくれると思うが」


「ええ。お心遣い感謝します、大佐」


 羽地大佐は今回のダンジョンにかなり危機感を持って臨んでいるようである。


「必要な装備が届くまで待つかい? UGVなら陸軍のものが半日か1日あれば届くが」


「そうですね。半日で届くなら待ちましょう」


「分かった。手配しよう。しかし、陸軍の小型UGVは小型といってもそれなりの大きさと値段がする。慎重に運用してくれ。じゃないと、国防装備庁から苦情が出る」


「了解」


 羽地大佐が小さく笑って言うのに、的矢もにやりと笑って返した。


 羽地大佐は小型UGVの調達価格が十数万しようと気にもしないだろう。それで部下の命が助かるならば、喜んで彼は装備の無駄遣いの件について責任を取る。彼はそういう人なのである。


「それでは半日待ってくれ。その間に食事なり、睡眠なり取っておくといい」


 羽地大佐は早速日本陸軍の小型UGVの調達にかかった。


「さてと、小休止のつもりが結構休むことになったな」


 的矢は指揮所を出て、呟く。


《化け物を早く殺したいのに残念だね》


 化け物を殺すのは良いが、化け物に殺されるのはごめん被る。


《一方的に殺すのがお好き?》


 もちろん。


《君は酷い奴だ》


 化け物がどう思おうと知ったことか。


『アルファ・リーダーよりアルファ・セル全員、装備を一時解いていいぞ。睡眠なり、飯を食うなりしておけ。陸軍の小型UGVが届くまで半日ほどかかる。その間、休憩だ。この休憩が終わったら、UGVと爆薬と手榴弾を山ほど背負って、とにかく潜るぞ。休憩できるうちにしておけ』


『了解』


 装備を日本陸軍の野戦憲兵に預け、それぞれが休憩する。本来ならば一度持ち出した装備は返却するまで自分で責任を持って保管しなければならないが、アルファ・セルはその任務の重要性から憲兵に預けることを許可されている。


《下へ、下へ。とにかく君たちは潜り続ける。化け物を殺して、進み続ける。君は一体どれほどの化け物を殺してしまえば満足するのかな?》


 この世に溢れかえった化け物全てだ。


《そうでないと。軽快に殺したまえよ。君は進軍する。地下へ、地下へ。ダンジョンマスターのいる場所まで》


 ダンジョンマスターとやらが本当にいるならな。


 的矢はそう言って自分も装備を整えなおし、憲兵に預けた。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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