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緑豊かな階層にて

本日1回目の更新です。

……………………


 ──緑豊かな階層にて



 31階層は緑に覆われていた。


 いたるところに植物が芽生えている。


『ここって植物園だったのか?』


『いいや。居住区だ。だが、ダンジョン化の影響が出ている』


『ひでえな』


 信濃はそう言いながらAR(拡張現実)で表示される地図に従って進んでいく。


『ボスの嫌な予感、当たりましたね』


『ああ。クソ化け物の中でも面倒なのが入り込んでいる』


 椎葉が銃を構えながらいうのに的矢が頷く。


『緑のダンジョンなんて始めてだ』


『運がよかったな。俺たちは三度目だ』


 マイクロドローンを飛ばし念入りに索敵する。


『音響探知、振動探知両センサー異常なし。しかし、待ち伏せ型が面倒だな』


『これだけ緑に覆われているとどいつが化け物で、どれがただの植物なのか分からないしな』


『言っておくが、ここの緑は全て化け物だぞ、アルファ・スリー。ここのエリアボスをぶっ殺せば消えるっていうのはそういうことだ』


『あいあい』


 信濃は軽く頷くと、いつもより慎重に進んだ。


『畜生。いるぞ。進行方向に待ち伏せ型。振動探知センサーが反応』


『手榴弾を使え』


『了解』


 信濃は的矢の指示で進行方向に手榴弾を投擲する。


 コロンと音を立てて手榴弾が転がったと同時に居住区の壁を突き破って触手が手榴弾を絡めとった。そして、手榴弾が炸裂する。


『もう一発放り込んでおくか』


 的矢が手榴弾を開いた穴に放り込む。


 炸裂。


『振動探知センサーが沈黙。くたばったな』


『ああ。これが面倒なところだ』


 植物型ダンジョン。


 先ほどの化け物はテンタクルと呼称される化け物。壁や床、天井に潜み、振動を探知して攻撃を仕掛けてくる。非常に強力な力で目標を絡めとるため、一度捕まれれば強化外骨格エグゾを以てしても引き剥がすのは困難。


 そのまま首などを絞めて獲物を殺し、種子を植え付け、苗床にする。


 この他にも植物型ダンジョンは待ち伏せ特化の化け物がわらわらいる。


 大抵は振動探知センサーで探知できるが、本当に静かなものもいるため、生き延びるには経験が必要になる。ある意味ではアンデッドダンジョンより厄介なものである。何せ、植物を殺すのに心臓や胸に銃弾を撃ち込んで殺すことも、お神酒を使った退魔の銃弾も使えないのだ。


『アルファ・スリー。少し待て。戦術脳神経ネットワークからデータを落としてる』


『何かあんのかい、大尉?』


『有益かもしれないデータだ。ビンゴ』


 的矢なダウンロードした情報を共有する。


『住民の死体の位置を示したデータだ。連中は死体を苗床にする。ある程度の指標になるだろう。だが、油断はするな。ダンジョンが発生した際に、住民を死体にした連中もいると言うことだからな』


『流石だぜ、アルファ・リーダー』


 これでかなりやりやすくなると信濃は笑った。


『この先、化け物あり。用心されたし』


『手榴弾』


 またしてもテンタクルが飛び出し手榴弾を掴んで爆発に巻き込まれる。


『死体を苗床にした奴も近くにいるはずだ。銃弾で壁を小突いてみろ』


『了解』


 信濃が1、2発銃弾を壁と天井に向けて撃つ。


 すると、やはりテンタクルが飛び出す。


『手榴弾』


『この調子だと足りなくならないか?』


『その時は補給しに戻る』


 テンタクルがまた爆発を起こす。


『急がば回れ、だ。俺は部隊から死人を出したくない』


『了解。あんたがリーダーでよかったよ』


 部下を死なせてでも戦果を取りに行く指揮官はどうかしていると的矢は思っている。何よりも優先されるべきは部下の命だ。


 自分が英雄になるために犠牲になるならば勝手にしろと思う。軍隊というのは指揮官が死んでも機能する用に作られている。だが、自分が英雄になるために部下を死なせる奴はクソ野郎だと的矢は思っている。


《君は英雄なんて称号はどうでもいいって思っているタイプだろう?》


 ああ。英雄になるつもりはない。英雄になってどうする? 軍から“たくさんぶっ殺しましたで章”を授与されて、何が嬉しい? 勲章なんてクソみたいなもんだ。どんな勲章を得ることよりも、俺は部下が生きて帰れることを重視するね。


《そういうところ、ある意味では英雄の素質があるよ。英雄ってのはなろうと思ってなるものじゃない。周囲が熱狂し、祭り上げられるものだ。“たくさんぶっ殺しましたで章”にしたところで、君の卓越した戦闘センスが祭り上げられて授与されるものだ。英雄になるつもりはないだろうけど、君には英雄の素質があるよ。周囲から自然と敬意を勝ち取るしたたかな男だからね》


 クソ野郎。俺が欲しいのは正常な世界。それだけだ。この狂った世界とさよならしたい。だから、化け物をぶっ殺す。それ以外の目的は無価値だ。


《でも、君は化け物を殺すのを楽しんでいるだろう?》


 ああ。楽しいとも。連中がくたばっていくのは爽快だ。世界が正常じゃなくなった唯一の価値は化け物を殺し放題になったことぐらいのものだ。


《サディスト。サイコパス。ウォーモンガー。けど、君は君らしくあるべきだ。殺しを楽しむといいよ。いつだって誰かが苦しむのは、別の誰かの喜びになるんだ。世界っていうのはそういう風にできている》


 化け物の言いそうなセリフだな。お前たちこそ人間を殺すのは楽しかったか?


《とても。彼らの肉で腹を満たし、彼らの血でのどを潤し、彼らの悲鳴で心を喜ばせる。彼らの苦痛は僕らの快楽。嫌なものだよね》


 くたばれ。


『アルファ・リーダー。また化け物だぜ』


『殺せ』


『了解』


 確かに化け物を殺すのは楽しい。愉快だ。快楽だ。得難い喜びだ。


 世界が狂っていることを心のどこかでは喜んでいるのは、的矢のそのような感情のためだろう。世界は狂った。世界を元に戻すには全ての化け物をぶち殺す必要がある。そして、的矢は化け物殺しがいつしか手段から目的になりつつある。


 世界を正常にしてしまったら、もう化け物は殺せない。


 それだけが心残りだと的矢は思う。


 クソの詰まったような穴倉に飛び込んで、化け物を殺し、殺し、殺す。それがある意味での快楽。それがある意味での目的。


 世界と一緒に自分まで正気を失ったかと的矢は思う。


 だが、世界は正常に戻るべきだ。それだけは確かだ。


 世界を正常に戻すためならば、地獄にだって乗り込んでやるともと。


『ボス、ボス。ミュート爆薬を使っては?』


『威力が大きすぎるだろう』


『それでもせっかく持ってきてますし』


 確かにミュート爆薬は毎度抱えてきてはそのまま持ち帰っている状況だ。


『壁をふっ飛ばして進まないのか?』


『ダンジョンが低層で即座に制圧できるならばそうするがな。このダンジョンは何階層まで続いているのか分かりやしない。後から来るブラボー・セルのことを考え、ダンジョンが再構成されることを考えるならば、いい選択肢とは呼べないな』


『ふむ。なるほど』


 ネイトはそう言って頷いた。


『急がば回れ。常にそれだ。下手にずるをしようとするとしっぺ返しを食らう。ダンジョンって奴はそういう場所だ』


 そして、的矢たちは死体の位置情報と振動探知センサーを使って罠だらけのダンジョンを着々と進んでいく。


……………………

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