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次の階層に向けて

本日5回目の更新です。

……………………


 ──次の階層に向けて



 2日後、工兵が30階層に拠点を設置した。


 まだ羽地大佐が約束した装甲戦力は来ていないが、そもそもあまり期待していない。


 30階層はダンジョンの再構成に伴い、大きな運動場に戻っており、そこに兵舎や指揮所、武器弾薬庫が設置されていた。当然のことながら医療施設も存在しており、戦闘適応調整が受けられるようになっている。


 ここまで徹底した攻略も久しぶりだなと的矢は思う。


 通常は10階層ごとに拠点など設置しない。最上層に拠点を作り、そこから一気に地下に降りていくパターンだった。


 そうでもしなければ時間がかかりすぎる。生存者の救助は絶望的になり、ダンジョンを攻略することの意味合いは単なる領土の回復に留まる。


 もちろん、世界を“正気”に戻すのは大事だ。だが、ちんたらしていては世界は狂った状態からいつまでも抜け出せない。そのうち、狂気が定着し、狂気こそが正気というイカれた世界になってしまう。


 しかし、攻略する側としてはこうして丁寧に攻略のサポートをしてくれる方がありがたい。物理的にも安定するし、精神的にも安定する。すぐ上層には正気を保った場所があるという事実は、攻略するものの精神を安定化させるものだ。


 羽地大佐がそこまで考えているかはどうかとしても、彼は今回のダンジョン攻略にかなりの気合を入れているようだった。彼自身もダンジョン──正常化としたとは言え、ダンジョンはダンジョンだ──に潜るのは久しぶりのことではなかろうか。


 大佐ともなればいくら統合特殊任務部隊という戦術単位の指揮官であろうとも、もっと後方で指揮を取るものだ。それが前に出ている。


 日本情報軍は指揮官率先であったり、大佐クラスの将校が現場に出て現場を鼓舞しなければならないほど士気が低かったり、現場に出なければ部隊が統制できないほど指揮通信機能に問題があるわけでもない。


 それでも大佐クラスの人間が現場に出ている。


 それが力の入れようの表れだけならばいいのだが。もしかすると、的矢たちでは判断できない、大佐クラスの人間でないと判断できない事象が発生するのかもしれない。


 そういう時は大抵面倒なものだと的矢は思う。


《素直に人の厚意を受け取ったら? 悲観的に考えるのは軍人らしいけどさ》


 黙ってろ。


 次は40階層を目指す。だが、その前にダンジョンの情報を受け取って置かなくては。


 丁度、AR(拡張現実)に羽地大佐からの呼び出しが来ている。


 的矢は新たに設置された指揮所に向かい、羽地大佐に会うことにする。


「来たか、的矢大尉。とりあえず40階層までの地図が出来ている。本来はここも居住区だったが例によって迷宮化している。生存者は、この階層にはほぼ存在しないようだ。それからダンジョンカルトも」


「ふむ? それはそれで危険そうですね」


「ああ。かなり攻撃的な化け物が住み着いている可能性がある。いろいろと可能性は考えられるが、君たちアルファ・セルならば上手くやってくれるだろうと期待しているよ」


「期待には応えましょう」


 化け物どもをぶち殺すだけの仕事だ。難しくもなんともない。


「上層部は熊本ダンジョンの攻略は長期戦になると見ているが、君の意見を聞きたい」


 羽地大佐はそう尋ねた。


「今の段階ではなんとも。アンデッド戦がスムーズに進んだのはいいことですが、まだ竜種を確認していません。あれがいると長期戦になるでしょう」


「竜種か。確かにあれは面倒だ」


 羽地大佐が頭を掻く。


「できる限りの援護は行う。正直、上は急ぎすぎだ。かなり急かされている。だが、私にとって大事なのは君たち部下の生存こそだ。他のノイズに耳を貸すつもりはないので安心してもらいたい」


「助かります」


「頼んだよ」


 的矢は羽地大佐に敬礼を送って退室した。


「大尉。次の敵は?」


「まだ分からないが、かなり攻撃的な連中らしい。それから生存者についてはほぼ確認できないし、ダンジョンカルトの脅威も低いそうだ」


「喜ぶべきか、嘆くべきか」


「悲観的に準備し、楽観的に運用せよ、だ。準備の段階ではクソみたいに悲観的になっておけ。それこそこの世の地獄を想像しろ」


 信濃が肩をすくめるのに、的矢はそう言った。


《この世の地獄? 中央アジアのような?》


 ああ。その通りだ。


《所詮は人間に作られた地獄だよ。本物の地獄っていうのはさ。もっと愉快で、悲惨で、救いようがない場所なんだ》


 そうかい。


「よう、的矢。あんたらはどうしてサーモバリック弾を使わないんだ?」


 信濃とともに武器弾薬庫に向かうと、ネイトがサーモバリック弾をタクティカルベストに装着していた。


「熱が発生し過ぎるからだ。火炎放射器ほどではないが、炎というのはダンジョンでは竜種のブレス程度でしかお目にかかれない。不必要に熱を与えると、異常を起こす化け物もいる。それに衝撃波程度ではくたばらない化け物も大勢いる」


「そうか? 俺の経験からするとサーモバリック弾は有効な武器だぞ」


「あんたら俺たちのノウハウを学びに来たんだろう? こちらの指示には従えよ」


「分かっている。足は引っ張らない」


 それでもサーモバリック弾は装備したままだった。


「大尉。必要なものは?」


「化け物をぶち殺すためのいつもの装備だ」


「それならより取り見取りだ」


 7.62ミリ弾。空中炸裂型グレネード弾。45口径の自動拳銃。手榴弾。スタングレネード。ミュート爆薬。それから、お神酒等々。


 攻撃的な化け物が存在する可能性が高いとして、マイクロドローンは複数持っていく。攻撃的な化け物は気まぐれに装備を破壊したりするのだ。


 だが、今のところ攻撃的な化け物が多いというよりも、知性のない化け物が多いという可能性の方が高かった。知性ある化け物と言っても、せいぜい吸血鬼のようにダンジョンカルトを餌を運んでくる便利な生き物と認識する程度。知性のない化け物は機械的に殺していくか、人間の有益性が理解できていない化け物ということだ。


 機械的に殺していく化け物はある意味では対処しやすい。戦術などはなく、実に単純な動きしかしないからだ。火力さえ叩き込んでやれば、容易にぶち殺せる。


 そこで的矢はふと過去の事例を思い出した。


「全員、ガスマスクを装備に入れておけ。嫌な予感がする」


「了解」


 機械的に殺していく化け物。思い当たる節はいくつかあるが、そのうちふたつほどは面倒なトラブルの原因になるものだった。


 機械的に人類が人類を殺し始めたとき、生み出されたものは?


 そう、毒だ。


 毒を使う化け物は皆無じゃない。いくつかの化け物は非常に有毒な物質を放出する。それでやられた部隊も存在するし、データベースにも情報が残っている。


 ならば、毒に備えるだけだ。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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[一言] 毒と熱でいらん事になる(或いは逆)フラグ?
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