アンデッドキラー
本日3回目の更新です。
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──アンデッドキラー
この26階層から吸血鬼が出没し始めた。
吸血鬼からウィルスを植え付けられたダンジョンカルトどもも。
『てや!』
本来ならば日本陸軍の強化外骨格を装備した1個増強小隊の部隊でも苦戦する吸血鬼複数を相手に椎葉が次々に吸血鬼を屠っていた。吸血鬼の心臓に的確に一発の祝福された銃弾を叩き込むことで。
『どうです、どうです、ボス。また1体倒しましたよ』
『ああ。その調子で殺しまくれ。殺して、殺して、ぶち殺せ』
嬉しそうに椎葉が報告するのに的矢の方はウィルスに感染したダンジョンカルトを相手にしていた。吸血鬼はオカルトな存在のくせに、ウィルスだけは科学の存在のようで、お神酒に浸した退魔の銃弾もバイタルパートに当てないと意味がない。
胸に二発、頭に一発。それで確実に仕留めていく。
心臓と肺に繋がる血管を切断し、脳をぶち抜く。大抵の生き物はこれで死ぬ。
それで死ななければミンチになるまで銃弾と爆薬を叩き込んでやるだけだ。ミンチにしても死ななければ、もっと細かく切り刻んで、後は焼いてやるだけだ。燃えカスにしても生きているようならば、コンクリで固めてやる。
だが、そこまでの化け物に遭遇したことはない。
大抵の化け物は胸に二発、頭に一発のやり方で仕留められる。
吸血鬼にしたところで、確実に銃弾を叩き込みさえすれば、仕留められる。
『クリア』
『クリア』
ダンジョンカルトと吸血鬼が一掃されたダンジョン──まだ続く居住区で、的矢たちはダンジョン内が一掃されたことを確認した。
『生存者を確認しろ。ダンジョンカルトどもは殺せ。生き延びていたらトドメを刺せ。連中は感染している可能性がある。他の生存者も要注意だ。どこにサプライズプレゼントが仕掛けられているか分からないからな』
『了解』
忌々しいクソ化け物どもめ。忌々しいクソカルトどもめ。
《楽しそうだね。化け物もダンジョンカルトも殺すのは楽しい?》
ああ。クソみたいに楽しい。クソをクソにしてやるのは最高に楽しい。
《たくさん殺すといいよ。殺せば殺すほど、君の望みに近づく。大量虐殺者の夢に》
クソ化け物。
《世界はもう元には戻らないよ。いくら化け物を殺してもね。ダンジョンは前兆だ。地獄という名の異世界との繋がりができる前兆だ。ある意味では君は君の目的を果たすことができるだろう。地獄まで降りて来て、ボクの本体を殺せば、君の世界は正常になる》
そうかい。じゃあ、待ってろ。殺しに行ってやる。
《期待してるよ。君にならできると信じてる。さあ、地獄の蓋を開けに地下に潜ろう》
地獄の蓋を開ける、か。責任重大だな。
《丈夫な缶切りは持った? ティッシュとハンカチは? それからレディのお屋敷にお邪魔する時はフォーマルなドレスコードで、手土産を持ってね》
この格好が戦場のフォーマルスーツだ。そして、手土産は鉛玉と爆薬だ。
《それもそれでいいかもね》
ラルヴァンダードはクスクスと笑った。
『ボス。生存者を確認。感染者はいません。ブラボー・セルに応援を要請しますか?』
『要請しろ。全員、残弾数はまだ大丈夫か?』
椎葉が報告し、的矢が全員にそう尋ねる。
『まだ大丈夫です』
『余裕あるぜ』
陸奥たちがそう返事を返してくる。
『よろしい。このまま進むぞ』
的矢も残弾数を確認する。空中炸裂型グレネード弾も、手榴弾も、強襲制圧用スタングレネードもまだまだたっぷりある。
『しかし、化け物の数が多い。次の階層かその次かで、一度補給に戻るべきだろうな。いくら椎葉が吸血鬼を一撃で仕留めて行っているとしても、ダンジョンカルトどもやゾンビを相手にしては弾が不足する』
『そうですね。用心するに越したことはないでしょう。それにこのダンジョンは再生成がかなり遅いようです』
『陸海空軍が砲爆撃を浴びせても完全に修復されるまで1週間、だからな』
日本陸海空軍が砲爆撃を浴びせ、大穴を開けたダンジョンにおいても工兵隊が10階層に拠点を作ってから、1週間で10階層から20階層は再構成された。その間に潜るということも考えられたが、いつ再構成されるか分からないダンジョンに、いきなり飛び込むのはリスクが大きすぎる。
飛び込んだ先でいきなりダンジョンが再構成され、化け物に囲まれるということもないとは言い切れないのだ。
だから、用心してダンジョンが再構成されてから的矢たちはダンジョンに潜った。急がば回れというものだ。
『1週間ならかなり余裕がある。新宿ダンジョンなんて3日で再構成だったからな』
『ええ。あれには手を焼きました』
『幸い、そこまで深くなかったが』
データベースには残っていないので噂だが、中には3時間で再生成するダンジョンすらあったそうである。日本陸軍の遭遇したダンジョンで最終的にごり押しして攻略したそうである。そこまでのものになると、攻略は一筋縄では行かない。
だが、今回は再構成に1週間。かなりの余裕がある。
着実に進めていくべきだろう。急がば回れの精神で。
『あの軍曹はとんでもないな、アルファ・リーダー』
『そっちは従軍司祭が活躍したんじゃないか、アルファ・ファイブ』
『ああ。海兵隊の従軍司祭は吸血鬼どもを片っ端から始末したそうだ』
『海兵隊はタフだな。誰もがライフルマンとは言ったものだ』
海兵隊は歩兵からパイロットまで全員が銃を撃てるように、未だに訓練されているそうである。昔からの伝統だ。
『あれは正規の聖職者じゃあないが、それでもあれだけやれるんだ。本職の坊さんや神職に自動小銃を持たせたら怖いものなしだな』
『アンデッドは厄介だからな』
『ああ。クソみたいにな。それからダンジョンカルト』
的矢はこれまでいろいろと文句をつけてきたアメリカ人がやけにダンジョンカルトについては素直なことについて疑問を感じていた。
『連中はどうしようもない。ダンジョンから連れ出しても正気には戻らない。ナノマシンによる治療も不可能だった。それにひとりのダンジョンカルトを拘束して上層に上げるのに、3人の兵士が犠牲になるとしたら、そのまま殺してやった方が慈悲深いだろ』
『経験があるのか?』
『ある。ワシントンメトロダンジョンの攻略の際だ。ダンジョンカルトが生まれていた。俺たちは彼らを懸命に連れ出そうとしたが、上手くいかなかった。ダンジョンカルトは死に物狂いで抵抗し、我々から武器を奪って攻撃してきた。殺すしか、なかった』
そういうネイトは自分にそう言い聞かせているようだった。
『そっちの中尉もか?』
『ああ。一緒にワシントンメトロダンジョンを攻略した。地獄だったよ。あそこは』
それ以上言うことはないというようにネイトは口をつぐんだ。
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