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狂える人々

本日2回目の更新です。

……………………


 ──狂える人々



 地下に潜る。地下に潜る。


 ゴーストを殺す。ゾンビを殺す。そして、ダンジョンカルトを殺す。


 ゾンビたちはうようよしていた。


 それも殺したのはゾンビたちではなく、人間による仕業だった。包丁での刺し傷や殴り殺された痕跡。ダンジョンカルトが生贄に捧げて、ゾンビになった死体だ。


 ダンジョンカルトどもは地下に潜るにつれて狂っていっている。


 死体のオブジェはよりグロテスクになり、カルトの数は増え、儀式が行われる。儀式という名の残酷な殺人が。生きたままゾンビに貪らせるような、生きたまま臓腑を抉るような、そのような残酷な儀式殺人が行われているのである。


『どいつこいつもイカレてやがる。ダンジョンが人を狂わせるってのは本当らしいな』


『そうみたいだね。みんな、イカれている』


 信濃は的矢の意見に頷きながら、死体で作られたオブジェを眺めていた。手足がどういう方法を使ったのか、絡み合っており、骨も肉も滅茶苦茶になっている。そういう死体が居住区の壁一面にびっしりと釘で貼り付けられている。


『我々に影響はないんでしょうか?』


『何のために俺たちが毎回毎回戦闘後戦闘適応調整を受けていると思っているんだ。脳みそをリセットするためだぞ。一時的に影響は受けるかもしれないが、それ以上のことはない。もし、お前が発狂するようなことがあれば俺が撃ち殺してやる、アルファ・ツー』


『勘弁してくださいよ、アルファ・リーダー』


 陸奥が冗談交じりにそういう。


 だが、的矢としては自分のチームからダンジョンカルトに味方するような狂人が現れた場合、射殺しなければならないことは認識していた。ダンジョンカルトはせいぜい包丁やスコップで武装している程度だが、アルファ・セルのメンバーは7.62ミリ弾を使用する自動小銃で武装しているのだ。


『しかし、まあ死体の数が多いことで、ゴーストの数が少ないのが幸いだな。ゴーストはゾンビより面倒だ』


 音響探知センサーにも振動探知センサーにも引っかからないゴーストはゾンビ以上の脅威である。それが死体がダンジョンカルトたちによって大量に生み出されていることにより、数を減らしているのは確かにいいニュースだ。


 死体の臭いがする中をゆっくりと進んでいく。


 血の臭いがする。汚物の臭いがする。


 不思議と腐った死体の臭いや焼かれた死体の臭いはしない。


 ダンジョンは中央アジアとはまた異なる死の臭いがする。どこの紛争地帯とも違った死の臭いがする。ここでの死は死人すらも掴んで逃がさない、そんな死だ。ダンジョンで死んでもシジウィック発火現象は正常に失われる。だが、本当にそうなのか的矢は昔から疑問だった。この迷宮は魂すら捕えてしまうのではないのかという気がする。


《それがダンジョンの生み出す狂気だよ。死すら許されない。魂すら囚われる。それこそがダンジョンの植え付ける妄想。実際にダンジョンで死ぬのと、ダンジョンの外で死ぬことには変わりない。同じ、死だよ。君たちの言うシジウィック発火現象の崩壊》


 ダンジョンカルトが生まれる原因が分かった気がする。


《彼らも君と同じような考えに至ったようだね。このままでは満足に死ぬことすらできない。永遠にこの地獄から解放されない。死ねば亡者となってダンジョンを永遠にさまようことになる。それならばいっそ、ダンジョンと一緒になってしまおう》


 イカれている。


《だが、彼らはそう考えたし、君もそう考えかけた。市ヶ谷地下ダンジョンで君が正気を保てたのは何故だろうね? 君がタフな男だから? それとも君が全てのダンジョンを崩壊させる選ばれしものだから?》


 くたばれ。


《ボクたちももう長い付き合いじゃないか。そろそろ普通に話そうよ》


 断る。


《悲しい》


 そういうキャラじゃないだろ。


『アルファ・リーダー。またダンジョンカルトだ。だが、様子がおかしい』


『連中がおかしいのは今に始まったことじゃないだろ』


『いいから見てみてくれ』


『了解、アルファ・スリー』


 的矢が信濃の視界を共有する。


『ふむ。連中、食ってるな。いや、違う。あれは吸血鬼だ。いよいよアンデッドの中でも面倒なのがおいでなすったぞ』


 吸血鬼。アンデッドの中でも最悪の部類。


 その吸血鬼がダンジョンカルトの捧げた生贄の血を貪っている。


 外観は人間によく似ている。その鋭い牙と獣のような爪を見落とせば、生存者と見間違ってしまうだろう。だが、見間違えば命取りになる。


 強化外骨格エグゾを装備した兵士以上の筋力と獣のような素早さを発揮し、そして一部のものとなると霧になったり、蝙蝠になったりして、物理的に捕えられなくなる。紫外線は弱点ではあるが致命的ではなく、動きを止める程度である。


 だが、所詮はアンデッド。そして、鬼だ。


『全員、特殊装備をちゃんと使え。俺はスタングレネードで連中を怯ませる。化け物とは言え、所詮はアンデッドだ。椎葉の実家のお神酒はよく効くことだろう』


『銀の弾丸は使わないのか? 俺たちはそれで対処したぞ』


『銀の弾丸は殺傷力の点で通常弾に劣る。そして、銀の弾丸と通常弾を両方携行するのはデッドウェイトになりかねない。通常弾をお神酒で祝福した方が効果的だ』


『確かに多少の殺傷力の減少はあるが確実だぞ』


『だが、一部の連中には通じない。そうだろう?』


『畜生。その通りだ。こっちは従軍司祭まで動員してぶち殺した。そっちは?』


『一応プロがいる。とは言え、あれはただの吸血鬼だ。普通に殺せる』


 的矢とネイトがそう話し合う。


『やるぞ。スタングレネードをぶちかます。吸血鬼はダンジョンの闇に慣れているから効果的だ。連中を明々と照らしだし、祝福された銃弾を叩き込め。3カウント』


 3、2、1。


『スタングレネード』


 強襲制圧用スタングレネードが遠方のダンジョンカルトのサバトに放り込まれる。


 通常のスタングレネードの10倍の轟音と閃光が走り、ダンジョンカルトたちが身動きができなくなる。そこにお神酒で祝福した銃弾が次々に叩き込まれる。


『吸血鬼を最優先で始末しろ。ダンジョンカルトどもは後でいい。急げ』


『急いでます。クソ、動きが素早い』


 吸血鬼は強襲制圧用スタングレネードを受けて一時的に怯みはしたものの、銃弾が飛んでくる前に動き出し、周囲を獣のような速度で動き回り、ゾンビどもを呼び出している。このままでは損害が出る。


『やります』


 そこで椎葉がすっと銃口を吸血鬼に向けた。


『てや!』


 銃弾が放たれ、動き回って狙うことなど不可能だったはずの吸血鬼の心臓を貫く。


 吸血鬼は地面に崩れ落ち、そのまま灰になっていった。


『へへっ。どうです、ボス?』


『よくやった、アルファ・フォー。このまま残りの連中を片付けろ』


 本当にこいつはアンデッド相手には無敵だなと的矢は思った。


 まあ、いいことだ。“天満”のデータベースでも、日本陸軍や他の日本情報軍部隊がダンジョンでアンデッド相手に苦戦した経験があることが記されている。本来アンデッドほど厄介なダンジョンの敵はいないのだ。いるとすれば竜種ぐらいのものである。


 それが椎葉の手にかかれば次々に屠れるのだ。これほどのカードはない。


『最後はダンジョンカルトどもだ。皆殺しにしろ。感染している可能性もある』


 吸血鬼は大抵の獲物は食い殺すが、一部のダンジョンカルトたちにはある種のウィルスを植え付ける。それはその人間を吸血鬼に近い存在に変える。吸血鬼のような筋力と素早さ、血への渇望を植え付けるのだ。もっとも、吸血鬼には及ばない。


 その可能性があるため、ダンジョンで救出された住民はすぐには地上に出さず、検査を受けさせてから地上に移送するのである。


 吸血鬼ウィルスのアウトブレイクが起きては、外の世界まで狂ってしまう。


『クリア』


『クリア』


 そして、全てが殺された。


……………………

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